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関連書籍-ボルジア家

関連書籍 ボルジア家

チェーザレ関連

「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」 塩野七生 新潮文庫 昭和57年

チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷 (新潮文庫)たぶん日本で最もよく読まれているチェーザレ・ボルジア本。
淡々とした説明口調で出来事が列記されていくので、最初は読み進めるのが退屈かも。けれど内容は波乱に富んだチェーザレの人生なので、第二部に入る頃には没頭し、第三部ではせつなく悲しい気持ちになることは間違いなし。
チェーザレがどんな人生を歩んだのか、1492年のロドリーゴの教皇選出から、1507年のチェーザレの最期までよくわかります。




「君主論」 ニッコロ・マキアヴェッリ 佐々木毅 全訳注 講談社学術文庫 2004年

君主論 (講談社学術文庫) (文庫) 文字が大きく、ひとつの章が数ページと短いので、意外と読みやすい。(19章が20ページ弱で少し長いくらい。)
また、まえがきにマキアヴェッリの時代と生涯、「君主論」そのものについてのおおまかな説明があり、章の終わりにも簡単な解説がつけられている。
非常に親切だと思う。

君主権の種類について、
被征服地の種類について、

君主権の獲得のしかたについて、
軍隊の種類について、
君主のあり方について、
イタリアの君主の今までとこれからについて、
全26章で語られる。

チェーザレは3、7、13、17、20、26章に登場。一貫して称えてあるので、気持ちがいい。が、ユリウス2世もかなり頻繁に登場し、彼もけっこう褒めてある。・・・いや、いいんだけど。
マキアヴェッリの時代の人物やエピソードを交えつつ論じられている箇所も多いので、そこはとても楽しく読める。古代ギリシャ・ローマの英雄、皇帝を例にとっている箇所も多い。

歴史に残る近代政治学の古典、とか言うと、かたく難しくとっつきにくい印象を持つが、政治学に興味はなくても、チェーザレとその時代、マキアヴェッリ本人に関心があれば、おもしろく読めると思う。
マキアヴェッリの辛らつで容赦ない人間観が、私はとても爽快に感じて気持ちよかった。名著と言われるだけの読み応えは確実にある。

歴史的背景に疎い人は、塩野七生「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」を読み、「君主論 まんがで読破」を読んだ後に挑戦するといいかも。

ちなみに訳者は惣領冬実「チェーザレ 4巻」で巻末に寄稿しておられる大学教授の方です。




「マキァヴェッリ全集 5 使節報告書」 ニッコロ・マキァヴェッリ
藤沢 道郎、武田 好 訳 筑摩書房 1999年

マキァヴェッリ全集〈5〉使節報告書 (単行本) 現在は絶版になっている「マキァヴェッリ全集 全7巻」のうちの第5巻。
使節報告書として、
「フランス王宮廷よりの報告」と「ヴァレンティーノ公宮廷よりの報告」が収録されている。

フランスからの報告は、ピサ戦役での費用交渉のためフランスを訪れた際のもの。(1500年7月~11月)全体の3分の1くらい。
ヴァレンティーノ公とはもちろんチェーザレのこと。マジョーネの反乱時、フィレンツェ特使としてチェーザレの元を訪れた際のもの。(1502年10月~1503年1月)

マキァヴェッリがフィレンツェ政庁(または十人委員会)宛てに書いた、報告書の全訳文。
多くの解説と注釈がつけられていて、非常にわかりやすい。背後にある事実関係や人物関係まで丁寧に説明されている。
また、ヴァレンティーノ公爵のところだけ読んでも問題ないつくりになっている。(もちろんフランス宮廷だけでも。)本当に親切。

メインである報告書の訳文はいささか硬いが、解説と注釈文は柔らかくくだけている。筆者の藤沢さんに好感が持てるくらい。

ただ彼の解釈では、マジョーネの反乱においてのチェーザレの役割は「駒」にすぎず、「頭脳」はアレクサンデル6世にあったとしている。
論拠は示されるけど、ちょっと簡単に首肯はしかねる。と言うか、したくないってのが本音か。

しかし一説としては「あり」だろうし、詳細な考察に関心は持ってこそ、反感は感じない。
何と言ってもマジョーネの反乱の顛末が、解説つきドキュメンタリーのように日本語で読めるのは、有り難く、貴重。


ちなみにこの全集の内容
1巻=君主論、戦争の技術、カストルッチョ・カストラカーニ伝(傭兵隊長の生涯を描いた喜劇)
2巻=ディスコルシ(古代ギリシア・ローマの偉人たちの論評)
3巻=フィレンツェ史
4巻=マンドラーゴラ(ルネサンス喜劇の傑作とも言われる下ネタ満載の喜劇)とその他の戯曲
5巻=使節報告書
6巻=政治小論15編(セニガリア顚末記 含)と書簡78通
補巻=マキァヴェッリについての研究史、年譜、フィレンツェ年表、索引




「マキァヴェッリ全集 6 政治小論 書簡」 ニッコロ・マキァヴェッリ
藤沢 道郎、武田 好、他 訳 筑摩書房 2000年

マキァヴェッリ全集〈6〉政治小論・書簡 (単行本) 現在は絶版になっている「マキァヴェッリ全集 全7巻」のうちの第6巻。
前半の半分弱が政治小論。「ピサ攻囲論」「セニガリア顛末記」「「フランス事情」「ドイツ事情」など15編。
小論と言うだけあって、全てがとても短い。
メインで読みたい「セニガリア顛末記」
(広く知られているタイトルは「ヴァレンティーノ公はどのようにしてヴィテロッツォ・ヴィテッリ、オリヴェロット・ダ・フェルモ、オルシーニ家のパオロおよびグラヴィーナ公を殺したか」。
要約したタイトルがつけられている。)

は、わずか7ページしかない。がっかり。
しかし巻末の解説で14ページほど取り上げられている。それでも少ないけど!
「顛末記」と5巻に収録されている「使節報告書」との記述の差異について論じられていて、興味深い。背景を鑑み、気もちを慮り、行間を読む。事件を読み解く探偵のようだ。
「フィレンツェ国軍歩兵隊総隊長選任に関する提言」の注釈にミゲルの名がちらっと登場する。嬉しい。本当にちらっ、とだけど。

後半分はさまざまな場所からさまざま人々へ向けて書かれた書簡集。1497年から1527年まで。78通。
フィレンツェ史を追いながらマキァヴェッリの人となりを窺うことができる。


ちなみにこの全集の内容
1巻=君主論、戦争の技術、カストルッチョ・カストラカーニ伝(傭兵隊長の生涯を描いた喜劇)
2巻=ディスコルシ(古代ギリシア・ローマの偉人たちの論評)
3巻=フィレンツェ史
4巻=マンドラーゴラ(ルネサンス喜劇の傑作とも言われる下ネタ満載の喜劇)とその他の戯曲
5巻=使節報告書
6巻=政治小論15編(セニガリア顚末記 含)と書簡78通
補巻=マキァヴェッリについての研究史、年譜、フィレンツェ年表、索引




「昔も今も サマセット・モーム選集 6」 サマセット・モーム
 清水光 訳 三笠書房 1951年

昔も今も

カバーには定価200円とある古書。でも確か6千円近くした。高!
昔の漢字が使ってあるので、読むのにちょっと苦労する。「一體」「聱」「稱號」「傳える」「會見」・・・などなど。読めん!まあ、前後の文章で予測はつけられるんだけど。

↑ これは2010年の話です!現在は再販されていて適正価格で読みやすいものが購入できます!

1502年10月、マジョーネの反乱に際しフィレンツェ政府特使として、チェーザレの元を訪れたマキァヴェッリ。そこで彼は美貌の人妻と出会い、どうにか彼女と懇ろになろうと四苦八苦する・・・。

チェーザレの反乱軍への対応など、物語にからんではいるが、大筋はマキァヴェッリの情けない恋物語。

マキァヴェッリのキャラが、おしゃべりで女好きで自分勝手で、胃腸が弱くてだのに大食らいで、後世に残る名著を残した人物には見えなくて笑える。チェーザレ(チェザーレと表記されている)はやはり残忍で嘘つきで腹黒い人物として登場。しかしマキァヴェッリとのやりとりなど、できる人物然としていて好ましい。一人称が「儂 わし」なのは微妙だけど。ミゲルの描かれ方はひどい。「げじげじ眉毛で寸のつまった鼻の獰猛な面構え」だって・・・。

ピエロの演じた、実は・・・という役割を、チェーザレがやっていればもっと笑えたのに!と思う。

「昔も今も」というタイトルは、「人間には進歩などなく、いつの世もたいして変わりはしない」というシニカルなマキァヴェッリの人間観が、モームの時代に対する暗喩として、こめられている。




「ボルジアの紋章」ラファエル・サバティーニ イソノ 武威 訳 Kindle版 2013年

チェーザレの評伝「The Life Of Cesare Borgia」も書いているラファエル・サバティーニの、チェーザレ・ボルジアにまつわる創作連作短編集。3編。
原題は「The Banner of the Bull」。1915年。
訳者の方はパブリックドメインになっているラファエル・サバティーニの諸作品をいくつも訳されてAmazonなどに公開して下さってる方。ありがたい〜!

サバティーニはボルジアの淫蕩や毒殺を、グイッチャルディーニやジョーヴィオ(当時の年代記、伝記作家)による根拠のない中傷、それらを鵜呑みにし誇張されたデュマやユゴーによる創作と断言し、チェーザレを酷薄ではあるが怜悧な君主としてマキァヴェッリ以上にも思われる評価をしてくれているので、チェーザレのキャラに違和感がなく、読んでいて気持ちいい。

第1話が1503年6月、第2話が1503年1月、第3話が1500年10月の物語。
チェーザレの進撃真っ只中なので、1番楽しい時!何の憂いもなく強気で楽しく読める。

訳が時代を考慮しての上なのか、けっこう硬くて少し読みにくくはある。でも短編だし、少し読めばすぐ没頭できると思う!
惣領冬実、塩野七生を読んで、ある程度チェーザレの人生を知ってから読むのが良いかも。背景をわかって読む方が良いと思うので。




「ボルジアの裁き」ラファエル・サバティーニ イソノ 武威 訳 Kindle版 2013年

上記の「ボルジアの紋章」と同じく、チェーザレの評伝「The Life Of Cesare Borgia」も書いているラファエル・サバティーニの、チェーザレ・ボルジアにまつわる創作連作短編集。全7編のうちの前半3編。
原題は「The Justice of the Duke」。 1912年。

こちらの方が先に出版されてるんだけど「紋章」を先に読む方が世界観がわかりやすくていいと思う。こちらの2編はオリジナルキャラ、フェランテが中心なので、オマケ感強いし。
(でも「紋章」で後日のフェランテが言及されるので、時間系列的にはやはり出版順が良い…)

第1話、ヴェナンツィオ・ヴァラーノは速攻でミゲルに殺されてるはずなんだけど、まあそういうつっこみは野暮と言うかやめた方がいいよね、創作だし。楽しく読めます。
付録に、戯曲「The Tyrant」脚本序文があるのですが、サバティーニ先生の「チェーザレ・ボルジアって世間で思われてるような毒殺と近親相姦の男じゃないんだよ!みんなわかってない!!」という怒りが爆発してて面白いです。




「Cesare Borgia: Duca Di Romagna」Edoardo Alvis Legare Street Press 2022年

デュカディロマーニャ

イタリア語。新しく出版されているが、もともとは1878年発行された古典的ボルジア本。
なのでパブリックドメインになっていて、購入しなくてもgoogle booksで読める。(ただページをスキャンした画像なので、画質悪くてちょっと読みにくい)

こちらの書籍は出たばかりなので、印刷も当然きれいだろうし読みやすいと思われる。色んなボルジア本の参考文献に挙げられている本なので、1冊持っていてもいいかも。




「The Life of Cesare Borgia」 Rafael Sabatini Echo Library 2006年

英語。元々は1912年に発行されたチェーザレ・ボルジアの評伝。
アマゾンで検索すると、同じタイトル・作者名でいくつも出てくるが、中身はどれも同じ。出版社や発行された年などが異なる。

結論を言う前に、長々とその論拠が述べられていたりするので、やや読み進めにくい。チェーザレの生まれ年を特定するのにどれだけページ使うの!(惣領冬実もサチェルドーテ本に対して同じようなこと言ってあったような…研究者の書く文章ってみんな似た感じなのか)

当時の手紙などから引用された文章は、基本英文にされているので読みやすい。原文がわからないのは、もの足りない気もするけど・・・。

とにかくこの方、著者ラファエル・サバティーニはボルジアに対して散々行われてきたいわれなき中傷が許せないようで、根拠なく醜聞をばら撒いたグイッチャルディーニやジョーヴィオらをめっちゃ攻撃してて面白い。
すごく気持ちはわかるんだけど、ちょっと落ち着いて…!と言いたくなるくらい。

巻末に索引のないことが不満。というか不便。(私は読みたい箇所だけ探して読んだりするので。・・・必要のない人も多いかな?)




「Cesare Borgia A Biography」 William Harrison Woodward Eribron Classics 1913年

「Cesare Borgia A Biography」 William Harrison Woodward

英語。元々は1913年に出版されたボルジア本。518ページ。
惣領冬実「チェーザレ」の参考文献に挙げられている。
右ページ上に、そこに書かれている内容の一言要約、各ページ上にその年号が書かれている。細かいことだが、とても便利で読みやすい。親切。

後半の100ページ弱は、ボルジア家系図家系図の中の主だった人物の紹介、手紙や証書の内容などの付録。とてもマニアック。人物名索引もある。いいね。

頻繁にイタリア語での引用があるので、そこはちょっと読みにくいかも。
注釈も多い。が、巻末にまとめてでなく、同ページ内に書かれているので、ページを行き来する不便さはない。

日本の「Amazon.co.jp」にはないようですが、イギリスの「Amazon.co.uk」にあります。




「CESARE BORGIA」 Gustavo Sacerdote Rizzori 1950年

イタリア語。
惣領冬実版「チェーザレ」で主要参考文献とされている書籍。
布表紙(一部)で、縦28センチ、横22センチ、厚さ5.5センチ、重さ2.4キロ!文献、って感じです。
しかも(私の持ってるのは)黄ばんでいて、染みも無数にあり、白手袋着用で取り扱いたい気持ち。
ほとんど全ページに写真・図画が掲載されており(白黒だけど)、とても興味深い。
「LA SUA VITA, LA SUA FAMIGLIA, I SUOI TEMPI」(彼の人生、家族、その時代)と副題がついている。
Ⅰ.- LE STORIE DEI BORGIA(1章・ボルジアの歴史)から
ⅩⅩⅩⅦ.- LA FAMIGLIA DI CESARE BORGIA(37章・チェーザレ・ボルジアの家族)まで。索引なども含めて全906ページ。
ちなみにマントヴァの古本屋で購入しました。(「世界的に最も定評のあるチェーザレ・ボルジア伝」と「チェーザレ」1巻帯にあるけれど、英語版もフランス語版も見つけられなかった。)

表紙
背表紙

← 表紙と背表紙。

画像の説明






別の版の表紙。 →

P2,3

第1章の1ページ目。左はラファエロの作品と考えられているチェーザレの肖像画
右ページ下は、ヴァレンティーノ公爵チェーザレ・ボルジアのメダル。(図画)
(画像をクリックすると大きくなります。ブラウザの「戻る」ボタンで戻ってください。)


P4,5

その次のページ。左はヴァティカンの文書の写し。「ヴァレンティーノ公爵の人生」とある。
右ページ上はアレクサンデル6世と考えられている胸像。
下はバルトロメオ・ヴェネト作のルクレツィア・ボルジア、かもしれない肖像。
(画像をクリックすると大きくなります。ブラウザの「戻る」ボタンで戻ってください。)




「Cesare Borgia His Life and Times」 Sarah Bradford Phoenix Press 2001年

Cesare Borgia: His Life and Times (ペーパーバック) 英語。もともとは1976年出版のボルジア本。
歴史学者である著者は、エリザベス女王やダイアナ妃の伝記で有名。ルクレツィア・ボルジアの伝記も書いている。
巻末にチェーザレの進軍した道のりを第1次~第3次に分けた地図と、人物名索引が載せられているのが良い。肖像画や手紙など、多少の写真もある。が、白黒なのでありがたみには欠ける。
英語書籍の中では、私はこれが1番読みやすかった。文体が硬くなくて。そこはでも好みというか、人それぞれだろうけども。




「Caesar or Nothing : The Last Days of Cesare Borgia」Anthony Wildman Plutus Publishing 2023

英語。目次などもろもろ含み全114ページなので読みやすい。英文も難しくないと思う。
伝記や評伝ではなく小説。
ヴィアナでの敵襲と戦死が描かれ、葬儀でチェーザレを偲び彼がどんな人間だったか語り始める従者ガルシア。という設定。

従者ガルシアはメディナ・デル・カンポのモタ城から脱走する時、塔から落ちて捕まり処刑された人物。この物語でのガルシアはチェーザレと共に逃げのびて最期までつき添っている。

チェーザレが自分の成してきたことをガルシアに語り、その半生が垣間見える。
とても簡潔だけど、チェーザレが自分語りするの新鮮。父と弟妹のこと、還俗のこと、ロマーニャのこと、シニガリアのこと、没落してスペインに送られたこと…。

この本は「フィレンツェの外交官」(The Diplomat of Florence: A Novel of Machiavelli and the Borgias)という長編小説の姉妹編的存在なので、マキァヴェッリのことは多めに語られる。

もちろんミゲルのことも。手紙まで書いてたよ。
ピサの学生だった頃、1人の娼婦を2人で共有した思い出話してて、3Pなのか輪姦なのか知らんけど本当にやってそう…と思って興奮した。(もちろん無理矢理じゃなく女の子も楽しんだ前提でお願いします。)

「彼は常に忠誠を尽くしてきた。 しかし私が権力の座から落ちた時、彼はその忠誠心の代償を支払わねばならなかった」(he has ever been loyal. But he paid for that loyalty when I fell from power)という表現がいいなと思った。忠誠心の代償。

Kindle Unlimitedに含まれているので、加入してれば無料読める!ブラヴォー。未加入の方にはペーパーバックもあります。




「MOI et les BORGIA」Jean Canolle Robert Laffont 1978

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タイトルを直訳すると「私とボルジア家」。
サブタイトルはMémoires horrifiques et burlesques de Michelotto Corella tueur attitré de César Borgia. 「チェーザレ・ボルジアの公式処刑人、ミケロット・コレッラによる恐ろしくもバーレスクな回想録」。

ミゲル・ダ・コレッラを主人公とするボルジア家物語。フランス語。全312ページ。
1から18まで章立てされており、9の後と14の後に「第一間奏曲」「第二間奏曲」が入る。

ミゲルの一人称で書かれていて、「ロカルノ(ミラノとトリノの間辺り)で発見されたミゲルの手記」という体をとっている。最高の設定じゃない!?


しかし1978年フランス産のボルジア家。やっぱりチェーザレはルクレツィアに執心していて、枢機卿らを毒殺しまくる。
「近親相姦と毒殺の一家」というボルジアのイメージは、19世紀フランスのロマン主義者らに人気で広められたらしいので…まあ…仕方ない…か。

チェーザレは闇雲に妹を溺愛してるわけではなく、大人になり状況が変わっていくと彼女への気持ちと態度も変わっていくので、そこは好感が持てた。作者に。
しかし弟ホアンや親族のホアン(The younger)(シレンツィオ)の殺害犯はやっぱチェーザレ。
ドロテアやペンテジーレア誘拐犯もチェーザレ。ドロテアのこと、ディエゴから話を聞いて欲しくなり、横取りするというクソ野郎ぶり。
でもクソ野郎くん、ミゲルのことを「ミゲル」「ミケーレ」「ミケロット」だけでなく「ミゲリート」って呼んでた。あだ名ありすぎ。かわいい。



ミゲルが割と普通の男で、だから少年期は無邪気にチェーザレのことを慕ってるんだけど、野望に燃え残酷になっていくチェーザレに、段々と真っ直ぐな気持ちではついて行けなくなっていくのがせつない。

しかもミゲルはフィレンツェの女の子ベアトリーチェを好きになってて(好きになるきっかけが酷いんだけど、それは後述)、だからフィレンツェを攻撃して欲しくない、でもチェーザレを止めることはできない、その葛藤もつらい。

て言うかミゲル、本当に普通と言うかむしろ陰キャ?で、
マキァヴェッリのこと友達だと思ってるのに、マキァヴェッリはそうじゃないらしいことに傷つくし、
マキァヴェッリがグィッチャルディーニに自分を紹介してくれなかったことに傷つくし、
何なの…チェーザレ以外の友達欲しいの?さみしがりかよ!

ベアトリーチェに会いに行く前、ガラスに映る自分の姿を気にしたりもする。
処刑人として名を馳せていく自分に疑問があり、戦争って何だ?って思ってる。
チェーザレに惹かれながらも恐れていて、好きな子を寝取られる夢を見たりする。この手記もチェーザレが死んだから書けると言ってる。
腐敗するアレクサンデル6世の遺体も怖くて直視できない。
等身大の男子すぎ!

「俺たちは夢中になれる女性に出会うまでは、女たちを二の次に考えている。でも俺たちが女を愛した時、彼女たちは時の色を変える」
「チェーザレに反旗を翻した彼らの動機は、憎しみと同じくらい愛だった」「グイドバルド・モンテフェルトロはウルビーノを愛していた。ウルビーノの人々もモンテフェルトロを愛していた」
「カラッチョーロもダルヴィアーノも(チェーザレに妻を拐われた2人)、夫としての名誉と愛を守るために軍を動かしている」
って、愛とは何ぞと考えたりもする。



チェーザレがユリウス2世に逮捕された時、ミゲルはヴォルペらとトスカーナに向かってるじゃないですか。この話ではミゲルの目前で捕縛されようとするチェーザレが、ミゲルに頼むの「トスカーナを通過してロマーニャに入れ。そしてボルジアの権力をお前が掌握しろ」って。

キスして頼むの。「彼は初めて俺にキスをした」( Pour la première fois il m'a embrassé. Je me suis senti fondre.)。
でもこの2人、前にもキスしてるシーンがあるんですよ!
だからこのキスは今まで軽い気持ちでやってたキスとは違う。「初めて」と感じられる、特別なものだった。それをミゲルはわかった。

それで、今どれだけチェーザレが自分を頼りにしているか、って奮起する。
「たった2000騎で何ができる?」「チェーザレは俺にとんでもない想像を絶する離れ技をやれと言うのだ」「しかしこれが成功したら、自分とチェーザレはダ・ヴィンチによって要塞化された国家を率いる兄弟のようになれる」。
でも失敗するじゃん。
「俺はチェーザレ・ボルジアではなかった」って。………悲しくない!?

フィレンツェの牢の中で、夢うつつのミゲルの脳裏を様々なものがよぎる。
「色、音、鉄とビロード、赤と黒と金、」
「平原に立つ塔、神聖な部屋、地下通路、死体で散らかった階段、閉ざされた跳ね橋、……」
「焚き火、ワイン臭い樽、絞め殺された若い金髪の公爵たち、すすり泣き、物乞い、………」
って1ページ以上に渡って色々なものが羅列され、そして「……ベアトリーチェ。」で終わるんだけど、チェーザレの名前だけ3回出て来る。

切なすぎでしょ!!泣く……


ハッピーエンドにはならないことはわかっていても、悲しいよ。泣いてしまう。

最後に「ベアトリーチェは処刑人の子を身ごもっている」とあって、チェーザレがいなくなってもなお、彼は処刑人なんだ…とまた切なくなった。それ以外の生き方を、ミゲルは見つけることはできなかった。

フィレンツェの牢で最後に思ったのはベアトリーチェのことだった。ベアトリーチェはミゲルの希望として存在してた。善きもの、光、愛の象徴として。ダンテと同じように。
それをつかむことができたのに。
チェーザレが死んだことで、チェーザレの呪縛は永遠になってしまった。
エモい!!だけど悲しい。

沈着冷静で無慈悲なイメージの強いミゲルの、弱さや苦しさが描かれていて、大変に良かったです。





↓ 以下あらすじです。
1978年の初版しかない絶版のフランス語本なので、出会う機会はまずないと思われるので、ざっと書きます…。

1
「俺は常に従順で、常に執行者だった。自発的に殺したことは1度もない。ずっと、自分の立場を説明し釈明したかった。
チェーザレがナヴァーラで土に還った今、やっとそれができる。」


アレクサンデル6世が教皇になり、チェーザレがヴァレンシア大司教となった頃。
朝、チェーザレがミゲルを起こしに来る。「父上が呼んでるらしい。従僕ではなくブルカルドが伝えに来たからきっと大事な話だ。」
教皇は2人に、ボルジアの権力拡張と安寧のため他の有力者たちを排除していくことを宣言する。
チェーザレは「ヒドゥラの頭を確実に屠ることができるように」まず友人を殺してみせようと言う。

チェーザレはホアンの弟。
ミゲルはピサ大学でチェーザレと一緒に法学を学んだ。チェーザレを割と崇拝していて、彼の右腕であることを誇りに思ってる。
チェーザレはルクレツィアの侍女のフィアンメッタやドゥルーシラに詩を贈ったりするくせに、狙った女は無理矢理にでもやる男。ルクレツィアもやろうとして拒否られたらしい。(ミゲル談)



2
チェーザレは親友のようにつきあっていた恩師のスパノリオ・デ・マジョルカを刺殺する。「私にはできる。これができるんだから何だってできるさ。」

ルクレツィアの結婚が決まる。
チェーザレは大反対するが式が挙げられる。
豪壮な式の後、酔って帰れなくなり宿をとるミゲル。朝、部屋に女を呼ぶけど夜しかいないと言われる。仕方なく、洗濯物をとりに来た宿の女の子を押し倒す。
自分は女を犯しはするけど殺しはしない、と言うミゲル。特にこの子のような金髪はタイプだし。
女の子の名前はベアトリーチェ。
「じゃあ俺はダンテ・アリギエーリだ。」
ミゲルはこれを非常に面白い思う。本物のダンテはベアトリーチェに触れることもできなかったから。

(ミゲル、クソ野郎でびっくりした。殺人については「まあそういう時代だし…」と、受け入れてしまうけど、レイプは受け入れにくいよ…。おかしいけど。
ミゲルに悪気がないから余計クソ野郎。)



3
シャルル8世の侵攻。フランス軍の重厚な装備に驚くミゲル。
チェーザレはピッコローミニ枢機卿とともにシャルルと交渉し、人質になる。
ミゲルは初めてチェーザレと引き離されて動揺する。「俺は水に投げ込まれたバルビー(プードルの先祖と言われるわんこ)のように震えていた。どこに行けばいいのかわからずローマ中を歩き回った。」
2ヶ月後、夜明けにミゲルの部屋に現れるチェーザレ。キスする2人。(えっ、BL!?)

シャルル8世退場。
サンチャと四角関係になるボルジア兄弟。
ホアンに怒るチェーザレに「ぬるいな」と思うミゲル。「俺の知ってるチェーザレは女を共有する男の存在なんて許さないはずだが。」
そしてホアンの死。



4
チェーザレはホアン暗殺をミゲルに告白する。だよな、と思うミゲル。
戴冠式のためナポリに発つミゲルとチェーザレ。チェーザレはミゲルに、シャルル8世の人質になっていた時シャルルに助言した征服者としての心得を話す。
まず殺すべきは指揮官であること、誰に対しても厳しくあること、敵の財産は根こそぎ奪うこと、奪った地を豊かにし民衆を満足させること、反抗する者は殺すこと。

ルクレツィアを離婚させるためミラノへ行くことになるミゲルとチェーザレ。フィレンツェに寄り、街頭でサヴォナローラの説教を聞く。
宿に向かうと食堂にベアトリーチェがいる。ローマからフィレンツェに移り、前と同様に宿屋の仕事をしているという。この宿では自分が責任者として切り盛りしている。
「俺を覚えてないのか?ダンテだよ」
「あなたはダンテじゃない。彼は死んだわ」(何この返し!ベアトリーチェ天然!?)
「ローマからフィレンツェに来たのなら、またローマに戻ってもいいだろう。ミラノの帰りに迎えに来る」
「いえ、行きません」
「俺のこと、好きじゃないのか?」
「好きじゃありません…あれは無理矢理でした」
ふられたせいかベアトリーチェが気になるミゲル。「おかしいな、今まで忘れてたのに」
「女に執着するな。これから我々がやろうとしてることは大変なことだ、遊んでもいいが本気になるな」とチェーザレ。
翌日馬に鞍をつけているとベアトリーチェが見てる。
「自分でもよくわからないが、戻って来るから…この街を離れないでくれ。何か欲しいものはないか?…ドレスとか?」
「ありがとう、でも自分で生計は立てているから」
ベアトリーチェは17歳、ミゲルは22歳。(ルクレツィアの離婚は1497年なので、チェーザレも22歳、ミゲルと同い年とわかる。)

ルドヴィーコ・イル・モーロの仲介でジョヴァンニ・スフォルツァはルクレツィアと離婚することに同意する。



5
ルクレツィアが妊娠していることがわかる。
チェーザレが剣を手にルクレツィアの首を絞めて父親の名を吐かせようとしてる時、
「剣を持ってるのに締めるんだ…」と思うミゲル。(ツッコミおかしくない!?)
チェーザレは妹を孕ませたペドロ・カルデロンを殺す。

チェーザレの残虐さは聖職者向きではないと判断され、還俗が決まる。フランスへ。
フランスで供されたご馳走の内容を詳細に書いてるミゲル。(食いしんぼう?ベアトリーチェの宿でも3人前食べてた。)

ミゲルはシャルロット・ダルブレを気の毒に思う。チェーザレは女に愛されはしても決して女を愛さない。
ルイ12世との同盟。ルクレツィアとアルフォンソ・ダラゴーナの再婚が決まる。



6
ミゲルは6日間で30人のボルジアの政敵を暗殺する。
人々はボルジアの仕業だと噂するが証拠は何もない。ミゲルは優秀だった。殺しの極意を語るミゲル。チェーザレはミゲルの仕事にとても満足している。ミゲルもそれが嬉しい。

サヴォナローラの破門。(今頃!?)
アルフォンソ・ダラゴーナが襲撃される。ミゲルは殺しに失敗した5人の男たちを始末する。

アルフォンソにとどめを刺すために部屋に行くミゲル。泣き叫びやめてと懇願するルクレツィアとサンチャ。ミゲルは動揺し2人の気持ちに共鳴してしまう。これはやり過ぎだ。アルフォンソは何も悪くない。殺せない。無理だ。
(ベアトリーチェを好きになってから、女子に対する共感力上がってる?)

でも実行するしかない。こんな残酷なことをした自分を、チェーザレは捨てるだろうと思う。
でももちろんそんなことにはならない。

ここから、チェーザレと自分の本当の共犯関係が、真の友情が、完成した、とミゲルは思う。
「行くぞ、ミゲル。」とチェーザレが言う。



7
チェーザレは進撃前最後の休暇で、ルイーズに会うためフランスに行く。
ルクレツィアはスポレートの総督になる。
ミゲルはサヴォナローラ対策のためフィレンツェへ送られる。ベアトリーチェに会える!と嬉しいミゲル。「出会った時酷いことをしたと謝りたい、許してもらうためなら何でもする。」

しかし神権政治のせいで街は様変わりしており、ベアトリーチェはいない。ミゲルは反サヴォナローラの人々を集め扇動する。そしてベアトリーチェを探して欲しいと頼む。

反サヴォナローラのリーダー、ヴァルピアンの双子の娘たちは禁欲的すぎる今のフィレンツェの政体を憎んでおり、ミゲルに感謝する。そして夜、ミゲルのベッドに入って来る。
「私たちは生まれてからずっと黒か灰色のドレスしか着たことないの。ベアトリーチェのことや明るく華やかな暮らしの話を聞かせて。」
「私たち、処女のままで結婚したいからキスだけね、入れちゃダメよ。」
双子の要望に応えて翌朝ぐったりしてるミゲル。(ラブコメ入ってきてない?)

火の試練を拒否したサヴォナローラの権威は失墜し、火刑に処される。
フィレンツェは自由を取り戻したが、取り戻し過ぎて風紀が乱れる。教皇は見せしめのため娼婦たちを検挙し、幾人かを絞首刑にしろと言う。
何だそれと思いながら命令に従うミゲル。
400人の娼婦が検挙され20人が処刑されることに。20人の中にベアトリーチェがいる。
「彼女は違う。彼女は私の友人だ」
縄を解かれ、ミゲルに抱きつくベアトリーチェ。
「なぜここに?なぜ検挙された?」
「検挙されたんじゃないわ、私は1年前逮捕され刑務所にいたの。匿名の手紙が私を告発したの。」

再捜査が行われ、ベアトリーチェは解放される。
「何でもあなたの望み通りにするわ。」
「俺はやらなきゃいけない仕事があるんだ。でも戻って来るよ、君と一緒になるために。」



8
これからの進撃について話し合うチェーザレとミゲル。
チェーザレが尋ねる。「もし私があのフィレンツェの女を殺せと言ったら殺せるか?」
なぜベアトリーチェのことを知っているんだ、と驚くミゲル。逡巡するが最後には答える。
「殺せない。彼女は俺の生きる理由なんだ。」

「お前の生きる理由は、私ではなかったか?」(このセリフいいね!)
「かつてはそうだった。でもお前は、俺の死ぬ理由でもあった。」(このセリフもいい!)

ミゲルはチェーザレに言う。「チェーザレ・ボルジアが通った後はすべてが死に絶える。」「殺戮が終わり休息する機会を得た時、俺たちは幸福になるどころか、自分の腹を掻っ捌きたくなるんじゃないだろうか。」

「馬鹿だなお前。」とチェーザレ。「死体を積み上げることで手が届くものがあるんだ。そこでお前と私は首まで快楽に浸れる。」「苦しみではなく快楽を選べ。愛など介入させるから苦しむことになるんだ。私はボッティチェッリのヴィーナスだって殺せる。でもお前はベアトリーチェさえ殺せない。」「お前を殺してやる。お前には生きる資格がない。」

チェーザレの言葉にミゲルは剣を抜く。チェーザレも応じる。
激しい打ち合いが25分ほど続く。(時間細かくない?)
ミゲルはチェーザレの剣を叩き落とし、首筋に剣先を突きつける。
俺が望めば…、とミゲルは思う。チェーザレ・ボルジアは消える。

彼が死んだら誰が悲しむ?
フィアンメッタ?せいぜい5、6人の女?
父親?母親?フランスの奥方?
ルクレツィア?
俺?

この殺戮者から世界を救いたい。でもこの殺戮者の思想は魅惑的でもある。
自分はやはり、最後までそれに従いたい。

ミゲルは剣を納める。
「殺しはしない。でもそれはベアトリーチェが生きていることが条件だ。」
「…いいだろう。」
「もし近日中に何か起きたら…わかってるな?俺には友人がいるがチェーザレ、お前には誰もいない。俺以外は。」

(ミゲルにいてチェーザレにない友人って?)
(友人=凄腕の暗殺者=蛇の道は蛇だからチェーザレにはいない、ってことかな?)
(金でいくらでも雇えそうだけど)

「わかったよ。」
「それならロマーニャの作戦について聞こう。」

「助けてくれてありがとう。」と言うチェーザレ。
「は?俺たちは遊んでただけだろ?」(ここもいいね!)

ミゲルは思う。俺はそのうちチェーザレに殺されるのかもしれない。
なぜそうまでしてベアトリーチェを庇ったんだ。俺は何のために命を張ってるんだ。


カテリーナ・スフォルツァに対する作戦が始まる。
1万5000の兵が名のある隊長に率いられ集まる。イヴ・ダルグレ、ディジョンの廷吏、アッキレ・ティベルティ、エルコレ・ベンティヴォーリオ、ヴィテロッツォ・ヴィテッリ

フォルリの城塞に立てこもるナルディ。(なぜかファーストネームはアルフレド)
チェーザレはナルディを買収するため、ミゲルをローマに送り、教皇から金を受け取って来るように言う。
ナルディは買収されイモラは無血開城する。民衆は喜んでチェーザレを迎える。
チェーザレはミゲルに命じる。「ナルディを殺して金を回収して来るんだ。」

ミゲルは命令を実行し戻って来る。
チェーザレが言う。「金を持って逃げることもできたのに。」
「試したのか?俺は裏切ったりしない。」
「わかってるよ。でもベアトリーチェが私の害になったとしても、彼女のことは殺さないんだろ?」
「彼女がお前の害になったら、それはお前が彼女を害するということだから、俺はお前を殺すよ。」
こう言った後すぐ話題を転じるミゲル。(ベアトリーチェについてチェーザレと言い合いたくなさげ。)

フォルリで、カテリーナは捕虜となる。カテリーナを凌辱するチェーザレ。ミゲルは何度もその時の話を聞かされ、辟易している。

女性を捕虜にしたことで、騎士道精神に優れたイヴ・ダルグレはフランス兵を引き上げてしまう。
ローマに戻るチェーザレ。



9

チェーザレは、野心を表してきたホアン・ボルジア枢機卿(the younger)を邪魔に思い、彼を毒殺する。
ヴァティカンで闘牛を行うチェーザレ。
ヴァティカンに落雷。アレクサンデル6世がケガを負う。

ローマから動かずチェゼーナを手に入れるチェーザレ。策略は彼の本領だ、と感嘆するミゲル。
次はペーザロとリミニとファエンツァ。戦費のため12人の新枢機卿が任命される。

ジャンパオロ・バリオーニなど優れた傭兵隊長たちがチェーザレの下に集結する。民衆からの徴兵も始まる。
彼らは少なからずチェーザレをイタリアの新君主と見ている。

チェーザレは君主としての力量を発揮する。
「見えるのは熱狂と服従だけだ。」「チェーザレ麾下の軍はあの勇壮だったシャルル8世やルイ12世の軍よりももっと魂がこもっている。」

ペーザロが落ちる。が、ファエンツァに苦労する。ファエンツァのアストーレ・マンフレディは邪悪でないチェーザレのようだ。
ファエンツァは決死の覚悟で防衛する。ジャンヌ・ダルクのような少女もいる。賄賂にも応じない。
しかし兵糧攻めに苦しめられた末、とうとう陥落する。

チェーザレはアストーレをローマに送り、ミゲルに殺させる。
ミゲルは淡々と使命をこなす。が、少年を殺すことにつらさを覚える。
俺の腕は鈍ってはいない。
でもこの世界の誰も、チェーザレでさえ、俺の気持ちはわからない。ベアトリーチェ以外は。

(ベアトリーチェがミゲルをわかるわけないので、ここでもうベアトリーチェはミゲルの「良心の象徴」になってるんだな…)(と思いました。)



第一間奏曲
ローマから戻り、チェーザレは変わったと思うミゲル。距離を感じる。

チェーザレは語る。
「死や愛は数じゃない、質だ。魂を所有し肉体を支配するには偉大な巨悪である必要がある。」「殺人と強姦という肉体的な解釈に限れば、チェーザレ・ボルジアは悪党以外の何物でもないだろう。」「しかし私はこれらの概念を抽象的なものへと拡張する」「全能感を感じながら、創造し、破壊する。」(破壊の創造者!?びっくり)


「お前がローマに行っている間に、私は2人を殺し、死と戯れるための鋭い感性に気づくことができた。」
チェーザレは配下の2人、グイダレッロとヴィルジニオ・ロマーノを殺していた。
酒の席で、行きすぎた冗談から喧嘩になったグイダレッロとヴィルジニオ。チェーザレはヴィルジニオを唆しグイダレッロを刺させた。そして優秀な部下を殺された主君として、悲しみながら、罰としてヴィルジニオを殺した。

「そして愛だ。このゲームでは凌辱と死刑宣告を組み合わせてみたよ。」
チェーザレは忠臣ディエゴ・ラミレスの想い人、ヴェネツィアのカラッチョーロの妻であるドロテア・マラテスタを誘拐し、自分のものにしていた。
ディエゴを後押ししてドロテアを拐わせ、ディエゴを守るという大義名分で彼を遠くへ追いやった。ディエゴは下手人としてヴェネツィアに差し出され、処刑された。


「生身の人間を使って行うチェスゲームだ。」
「学ぶべき教訓は、あらゆる呵責、あらゆる友情、あらゆる憐憫を切り捨てることだ。」
「あらゆる可能性を超えて、イタリアを沈黙させ、イタリアを奴隷とするのだ。」
「その時初めて、私の行く手を阻むものはなくなり、私は国家を建立できる。」



10
アレクサンデル6世は、チェーザレの勝利を讃え金のバラを贈る。
しかしドロテア誘拐について苦言を呈す。これからボローニャやフィレンツェ、ナポリを狙うと言うのなら慎重にしろ。明晰さに欠けることをするな。
チェーザレは反論する。「私は父上のように弱気ではない。そして明晰にロマーニャを統治している。」

戦費のため贖宥状をばらまく教皇。
チェーザレはボローニャに狙いを定め、周辺の城塞を略奪する。
フィレンツェじゃなくてよかったと思うミゲル。フィレンツェにはベアトリーチェがいるから。

レオナルド・ダ・ヴィンチの登場。
「彼は誰にも、自分自身にさえ執着していない。彼は何か、広大でまばゆいものにとらわれている。弾け変化する生命の領域に。俺のテリトリーとはまるで違う。」


ルイ12世、フェルナンド2世とともにナポリを狙うチェーザレ。
カプアの劫掠。
チェーザレは選別した30人の女をローマに送る。その中から2人を買い、一方をミゲルにくれる。でもミゲルは手を出せない。
「俺が善良だからじゃない。
ベアトリーチェを愛してなかったら、カプアの街角で、家々で、教会で、自分は女を犯し殺していただろう。
それが戦争なんだ。
自分の脳の一部を切り離してその考えを受け入れた瞬間から、きちんとやらなければならない。
そして、きちんとやるということは、俺の将であり、主人であり、友人であるチェーザレ・ボルジアが、悪になると言うことなんだ。」

ルクレツィアとアルフォンソ・デステの結婚が決まる。



11
祝いの席で、明るくチェーザレと笑い合うルクレツィアを見て、ミゲルは安心し感心する。
ボルジアの人間は強い。彼女はフェラーラでチェーザレの呪いから解放され、幸せになるだろう。

ボルジアの悪行を事細かに告発する書面がローマにばら撒かれる。内容の正確さから内部告発とわかる。
教皇は笑い飛ばすがチェーザレは激怒する。
チェーザレは犯人と思われる男を殺し、腕と舌を切り取った死体を教会の中庭の柱に縛る。

ウルビーノに侵攻する。グイドバルドの反撃を心配するミゲル。
「大丈夫だよミゲル。我々はカメリーノに向かうことになっているし、そのためにグイドバルドは我々に軍を貸与している。彼は丸腰だ。そして我々を導く内通者もいる。」
チェーザレはウルビーノを奪取し、内通者を斬首し、モンテフェルトロの美術品をフォルリとチェゼーナに移す。

フィレンツェから大使がやって来る。ニッコロ・マキァヴェッリ。
彼はチェーザレと対等にやり合う。チェーザレが敵ながら天晴れと思っているのがわかる。
ミゲルはマキァヴェッリに興味を持ち、彼のおかげでフィレンツェはチェーザレから守られたと思い、感謝する。

カメリーノに向かうことになる。
また戦争か、またカプアの再現か、と思うミゲル。
卑怯なやり口でウルビーノを攻略した俺たちは、今やイタリア中から憎まれている、とミゲルは感じる。



12
チェーザレを恐れる人々がルイ12世に泣きつく。しかしルイはチェーザレの肩を持つ。ミゲルはほっとする。
しかしもっと近いところからも、チェーザレに対する恐怖と憎しみを感じる。
ヴィテッリバリオーニオルシーニ…。仲間の傭兵隊長たち。
その感情は低俗で、まだ服従と友好の顔をしている。


ミゲルはカメリーノのジュリオ・ヴァラーノと3人の息子を殺害する。
夢の中で、ミゲルはベアトリーチェを殺している自分の姿を見る。ヴァラーノの若い息子を殺した時と同じように、両手で首を締めている。なす術もなく、それを見ている。
ベアトリーチェが言う。「なぜこんなことをするの?何のためなの?何のためなの……。」
自分の叫び声で目が覚める。
「お呼びですか?」と使用人がやって来る。
ミゲルには今、何人もの従僕がいる。多くの人が自分を畏れ敬い、チェーザレの友人であることを羨んでいる。
でも皆、街が征服される度に俺がチェーザレの指示を待っていることを知っている。


ルイ12世に会うためにアスティへ向かうミゲルとチェーザレ。
途中フェラーラに寄り、アルフォンソ・デステを加える。
チェーザレはマントヴァとフィレンツェには手出しせず、ルイのナポリ攻略に協力することに同意する。

チェーザレは自らの地位を確固とし、宮廷を充実させたいと願う。
フランスは無力化された。フェラーラとは同盟。マントヴァは捨て置く。
ダ・ヴィンチとブラマンテをお抱え技師に。レミーロ・デ・ロルカをロマーニャ総督に。
そしてローレンツ・べハイムにこの世のすべてのことわりを教わりたい。
私は休むことなく疲労することなく一騎打ちで、神に立ち向かっている。
私は神に対して父と同じ立場にいる。
ミゲル、お前はどう思う?私を人間だと思うか?それとも悪魔だと思うか?
私はどれだけ死が絡もうと進む準備ができている。お前はどうだ?

「俺はお前がフィレンツェを諦めてくれて嬉しいよ、閣下。
俺にはもうベアトリーチェを好きだと思う気持ち以外、よくわからない。」



13

レオナルド・ダ・ヴィンチが、ウルビーノでチェゼーナでペーザロでリミニで、才能を発揮する。ロマーニャ全土がチェーザレの下にある。これほど短期間で、これほど多くの街を手中にした君主は、かつてない。

しかし傭兵隊長たちの反乱が起きる。
ウルビーノ、ピオンビーノが旧領主の下に帰る。ヴィテロッツォがファノを、オリヴェロットがカメリーノを掌握する。
チェーザレはフランスから600の槍兵を借り、アレクサンデル6世に送金させる。
フェラーラ、ロンバルディアからも兵が集められる。

ウルビーノ公を支持するサン・マリノでも反乱が起きる。ミゲルは「ウルビーノを奪還しよう」と提案する。
「馬鹿なことを言うな。」とチェーザレ。「今兵力を分断しては駄目だ。反乱軍は弱気だ、ルイと教皇を恐れている。統率もとれていない。ひと月もすれば奴らは、私との友好を取り戻そうとするだろう。」

チェーザレの言う通りに、まずパオロ・オルシーニ、パンドルフォ・ペトゥルッチが講和に訪れる。ベンティヴォーリオとも和睦する。


アレクサンデル6世に会うためローマへ行くミゲルとチェーザレ。(何のため!?)
ピントリッキオに装飾させた部屋を見せながら教皇が言う。
「ミゲル、お前チェーザレによく仕え頑張っているようだな。いや謙遜するな。お前もそのうち一国の主になるだろう。
画家が我々一族を描く度、お前も絵の中に登場させたいと思うよ。
その茶色の顎ひげ、真ん中で分けた整った髪、細いのにがっしりとした身体つき。よく見ればチェーザレに似ているな。
まあ、お前は私の次男のようなものだから…。」(アレクさん、いいこと言う…!)
「チェーザレ、反乱軍にまともなリーダーがいなくて幸いだったな。弱ってないかお前?大丈夫か?
まあとにかく戦費は節約してくれ。枢機卿の帽子も数に限りがあるからな。
女とはどうだ?上手くやっているのか?生意気な息子だよ全く。」
「ではまた、幸運を祈るよ、2人の将軍よ。愛する者と孤独な者、半身とその反映、太陽とその影よ。」


「ボローニャを州都にしたかった。」とチェーザレ。
「しかし今はいい。ウルビーノを取り戻そう。フィレンツェはどう動くつもりなんだ。マキァヴェッリを呼べ。」

マキァヴェッリが来る。嬉しいミゲル。「彼はベアトリーチェの街の空気をまとって来る。それにチェーザレとなかなかに上手くやりあっている。」

マキァヴェッリは言う。
「フィレンツェは派兵することはできません。兵の多くが閣下の手に渡れば、我々の安全が脅かされます。
しかし閣下、あなたが強力となりフランス王をも凌ぐ力を得るなら…私はあなたがフィレンツェの主となることに吝かではありません。しかしあなたはまだそれほどお強くはない。」
「俺が思ってたほど、お前は祖国を愛していないようだな、ニッコロ。」とミゲル。
「ミゲル、私のフィレンツェへの思いは問題ではないよ。私は強い国家、強い君主を求めているんだ。」「閣下…あなたの国はよく治められている…しかし主の鎧は少し凹んでいますね。」
「どうしろと言うのだ?」とチェーザレ。
「おわかりでしょう、彼らにあなたの鎧を凹ませる機会を与えるのです。」

(比喩わかりにくいけど、
チェーザレの凹んでいる鎧=反乱軍に奪われた街
鎧を凹ませる機会を与える=反乱軍にチェーザレを叩く機会を与える=負けて(和解して)油断させる
って感じかな。)

「ニッコロ、フィレンツェの書記官などやめて私の外交官にならないか?」
「あなたまだそれほどお強くはない。」



「ニッコロの言う鎧の凹みはウルビーノだ。」
ウルビーノを奪還する。カメリーノ、サン・マリノが続いて降伏する。

チェゼーナで祝杯が上げられる。宴にヴィテロッツォ、オリヴェロット、2人のオルシーニもいる。(いつの間に和解した!?)
その最中、チェーザレは最初のポーンを進める。レミーロ・デ・ロルカの処刑。
チェーザレはフランス軍を解雇する。フランス王はチェーザレを見捨てたと噂が広まる。

ポーンの2回目の前進。シニガリアへ侵攻する。
チェーザレはヴィテロッツォとオリヴェロットを先行させる。彼らはシニガリアを攻略する。
チェーザレは軍を率いて入城する。
ヴィテロッツォとオリヴェロットが中庭で迎える。オルシーニの2人も中庭に入った時、チェーザレは4人を捕縛させる。

ミゲルはチェーザレの命で4人の連隊を攻撃し、数を減らす。
そしてヴィテロッツォとオリヴェロットを絞殺する。ピサンロープと呼ばれるジュートと麻でできた滑りにくい縄を新たに使ってみる。
オルシーニをローマに移送し、チタ・デ・カステッロとフェルモを占拠する。

チェーザレは「1度は許した反逆者が再び陰謀を企てていたため、泣く泣く彼らを処刑した」と声明を出す。


今やチェーザレは中部イタリアの大部分を手中に収めている。フィレンツェを除いて。

その時初めて、ミゲルは恐怖を感じる。やっと一息つける時が来たはずなのに、怖くなる。
権力が拡大している。…伸びすぎている。
チェーザレが引き起こした憎悪で、人々がどこまでも永遠に黙っているなど、どうして信じられるだろうか。
指導者を皆殺しにするのがセオリーではなかったか。
グイドバルド・モンテフェルトロを殺したか?
カテリーナ・スフォルツァを殺したか?
バリオーニの始末をつけたか?
イザベッラ・デステたち各方面からの祝辞を、どうして本心だと信じることができるか?


ミゲルはまたベアトリーチェの夢を見る。
フィレンツェに一緒にいて、窓から略奪される街を見ている。ベアトリーチェは平然として、ミゲルにキスしてくる。
「待てよ、お前の同胞が殺されてるんだぞ!」
ベアトリーチェの口が吸盤のようになって、ミゲルの口を塞ぐ。そこにチェーザレが入って来る。
ミゲルはベアトリーチェにチェーザレを紹介する。ベアトリーチェはチェーザレを気に入ったように見える。
チェーザレはベアトリーチェを後ろ手にすると、跪かせ、裸にする。そして剣のような性器を抜いて後ろからベアトリーチェに突き刺す。
ベアトリーチェは悲鳴をあげるがミゲルは動けない。チェーザレのペニスはベアトリーチェの身体を貫き、口から飛び出し、彼女を窒息させる。

ベアトリーチェは死に、ミゲルは目を覚ます。悪寒を伴う熱で、数日間寝込んでしまう。
チェーザレが見舞いにやって来る。平和的降伏についての会合のため、シエナに行くと言う。
ミゲルはチェーザレを見る。そして思う。
「チェーザレがフィレンツェを奪うなら、…俺はこいつを殺す。」
(フィレンツェ=ベアトリーチェになってる!?)



14
パンドルフォ・ペトゥルッチがシエナから逃亡する。
反乱軍のオルシーニ2人が処刑され、枢機卿オルシーニが獄死する。

しかしウルビーノ公、ヴィテロッツォの弟ジュリオ、妻ドロテアを奪われたカラッチョーロ、同じく妻を奪われたダルヴィアーノ、オルシーニ一族が反チェーザレで同盟する。
チェーザレの弟ホフレが、蜂起したオルシーニの軍と戦っている。
ミゲルとチェーザレはヴァティカンに呼び戻される。
教皇はチェーザレを責め、気が狂ったかのように取り乱し、失神する。
「ホフレを助けなければ」と、チェーザレは大隊を編成させ、ミゲル、ウーゴ・デ・モンカーダ、ルドヴィーコ・デッラ・ミランドラを指揮官に指名する。
チェーザレが「父の後継者を確保せねば…」とつぶやいた後、「なぜ私ではないんだ?」と続けたのを、ミゲルは聞く。


チェーザレに妻を奪われた男2人が軍を率いているのを見て、ミゲルは思う。
「チェーザレが手を出した女たちをたくさん見て来たが、気に留めたこともなかった。ダルヴィアーノの妻など顔も覚えていない。しかし今ベアトリーチェが連れ去られたら、俺も軍を動員するかもしれない。」
「チェーザレはルクレツィアを思う気持ちが暴走し、カルデロンを殺した。」
「アレクサンデル6世はシャルル8世の人質になったジュリア・ファルネーゼのため、大金を支払った。」
「そしてチェーザレに反旗を翻した彼らの動機は、憎しみと同じくらい愛だった。」
「俺たちはどうやってこれを乗り切るつもりだったんだろう。」
「チェーザレの権力と栄光への愛が、これら全ての情念を打ち負かすことができるのだろうか?」


ミゲルはダ・ヴィンチの協力のもとにオルシーニの居城を次々と陥落させる。反乱軍は鎮圧される。
アレクサンデル6世の容体は日に日におかしくなる。
2人の枢機卿が毒殺され、新たに9人の新枢機卿が任命される。どちらにもチェーザレの息がかかっていることをミゲルはわかる。

ペトゥルッチがフランス王の支持を取りつけ、シエナに復帰する。
チェーザレはミゲルに愚痴る。「何でこうなる?もう少し、もう少しなのに。」
ミゲルは言う。「簡単に言えば問題は3つだ。ルイがお前より優勢なこと、フィレンツェとヴェネツィアが同盟国でないこと。」
「わかってるんだよ。しかし今フランスはスペインに押されている。スペインを味方につけられれば、フィレンツェもヴェネツィアも態度を変えるだろう。そうしたら私は、所領の全てを完全に掌握できる。」
「そんなに単純なものだろうか。全てを掌握できても、愛は難しい。」
「何だって?愛?何の話だ。」
「民の満足・幸福は、政治的なものだけでなく、感情的なものだと思う。ボローニャはベンティヴォーリオを愛し、ウルビーノはモンテフェルトロを愛してる。
フィレンツェは自由を、ヴェネツィアは独立を愛している。
人々が必要としてるのは、政治だけじゃない。」
「それは残念な話だ。そうであるべきなのに。しかし心配するなミゲル、我々が築いた城にヒビは入らない。施工不良はいくつかあってもすぐに修復できる。」
「…教皇が死んだら?」
チェーザレが立ち上がる。ミゲルは彼が高みに立っているように見える。
俺がチェーザレを尊敬していないと思わないで欲しい。彼から離れようともしたが、彼に対する大きな敬意と憧れの気持ちは変わらない。
チェーザレは言う。「それはまだ先のことであって欲しいが…」
ミゲルは2度目のセリフを聞く。
「なぜ私ではないんだ?それで全てが解決するのに。」
(どう言う意味?と思ったけど、世襲制じゃないことを嘆いてるのかな。父が死んだら継ぐのは息子の私だろ、って言いたいんでしょう。)



第二間奏曲
ミゲルはフェラーラでルクレツィアに、フィレンツェでマキァヴェッリに、接見する任務を負う。ローマで開かれるチェーザレの権力を誇示するための祝典に、彼らを招待するのだ。

フェラーラに向かいながら沈んでいくミゲル。
ルクレツィアの2番目の夫ビシュリエ公を殺したのは自分だ。きっと歓迎されない。
しかし丁重に迎えられる。
「ミゲル、私はもう子どももいるし、大人なのよ。」「チェーザレは教皇の息子でなかったとしても、傑出した人物になっていたと思うわ。彼は優秀で力を持っている。力で、国も民も私も支配する。」「私はここに来て初めて、力ではなく徳で生きている人々に出会った。彼らは私を利用したりしない。」「私は兄を愛しています。そのことに変わりはないけれど、私はもう2度とローマには行きません。」「ミゲル、天国への切符は買った?父が売っているわよ。」
丁重に帰される。


フィレンツェへ行く。マキァヴェッリの家へ向かう。思いの外豪奢な屋敷。
マキァヴェッリは玄関先にいた男を、グイッチャルディーニだと紹介してくれるが、ミゲルを紹介してはくれない。
「我々は友人ではない。」と言うマキァヴェッリ。
「だがあなたには興味がある。あなたはチェーザレ様に似ている。しかしそろそろ彼の下を離れた方がいい。」「教皇はいずれ亡くなる。その時彼の王朝は崩れる。民衆の支持も彼が敗者となれば失せる。」「君主は民衆と愛し合わなければならない。自分を偽ってでも、愛を与え、愛を乞うことが必要なのだ。あの方はありのまますぎる。」「民衆に、彼らの支配者は偉大で勇敢で無欲で、そして愛に溢れていると信じさせねばならない。」「チェーザレ様は、自らを滅して、民衆をこの陶酔に導くべきなのだ。」
難しい話だが、チェーザレに伝えると約束する。


ベアトリーチェに会いに彼女の宿へ行く。
昼食を頼み「女主人はどこにいるか?」と尋ねる。「キッチンにいます。」
数分後ベアトリーチェが現れる。髪をきれいに結って、スクエアネックの柔らかい毛織りのドレスを着ている。耳まで赤くなって、どうしてここにいるのかと訊く。(かわいい!)
ミゲルはマキァヴェッリに会いに来たこと、もう用事は済んだこと、部屋があるなら泊まろうと思っていることを話す。
「1番広い部屋が空いてるわ。1番いい部屋じゃないけど。でもあなたが悪いのよ、来ることを知らせないんだから。」(軽口叩けるようになってる!かわいい!)
「仕方ないだろ、俺は戦争中なんだ。もしそうじゃなかったら、月に30日はフィレンツェにいるよ。」
「戦争って…?」
「チェーザレ・ボルジアの、暴君との戦いだ。」
「…彼はフィレンツェにも戦争をしかけようとしていると聞くけれど」
「俺が生きているうちはないよ。」
「あなたにそんな、主君を動かせるほどの力があるの?」
「ないよ。俺にチェーザレの邪魔をする力を与えてくれるのは、愛だけだ。」
ベアトリーチェはミゲルの手に触れる。涙を浮かべて言う。
「あなたにここにいて欲しい。警備員を雇わなきゃならないようなこともあるの。知ってる?男は残忍よ。」
「…そうだな。誰のことを言っているのかわかるよ。」
「彼は自分を取り戻したわ。彼は私の命を救ってくれた。私は限りなく彼に感謝しています。」
「助けてもらったから、感謝の気持ちで好きだってこと?」
「愛してるから好きってことよ。」
「そいつはでも、犯罪者だよ。」
「兵士は犯罪者とは違うでしょう?」
「兵士でもあるけど、処刑人でもあるんだ。」
ベアトリーチェはミゲルを見る。彼の眼に暗い影を見たのか、ミゲルの手をとり、屈んでキスする。
「彼はもうそんなことしないわ。そうでしょ?」

ベアトリーチェの仕草には気品があり、瞳には深みがあり、はかり知れない優しさを感じる。
彼女が欲しい。彼女に満たされたい。俺が戦う時のお守りになって欲しい。
実際、彼女はもう俺の中にいて、俺よりも強い。
そして、俺はもう無辜の人を殺す勇気はない。

「…それに彼はフィレンツェに落ち着くつもりよ。私、彼を誘惑するために街を案内するわ。」
「俺、旅装だし汚れてるけど。」
「じゃあそんな汚れてるあなたが、フィレンツェの若くきれいな、素敵に着飾った女の子を連れて歩くのは名誉なことね?」(自信家かわいい!)

2人でヴェッキオ橋を渡り、至る所で強化工事が行われている通りを歩く。
「覚えてるミゲル?私の名前を聞いて『俺はダンテだ』と言ったこと。彼はルバコンテという橋の角でベアトリーチェに会ったのよ。私、神曲を読んだわ。あなたは?」
「地獄篇だけ。」

ミゲルはベアトリーチェに指輪を買う。郊外に連れて行き、前回知り合ったヴァルピアンに紹介する。

ベアトリーチェにキスすると、それが何度目でも初めてのようだとミゲルは思う。
天国行きの切符を教皇から買わなくても、入口の扉はここにある。自分の一部しか入っていないと思っていても、実は自分の全体が入っているのだと思う。(これ…下ネタだよね?)
発見と贖罪の旅。
この喜びから自分を引き離し、掃き溜めに戻るなんてできるわけがない。
でも戻ることを選ぶ。ベアトリーチェに別れを告げローマに向かう。

馬上で、気づくと歌を口ずさんでいる。
「あなたのもとを去らねばならないのは、意に反することなんです
愛が去ったと思わないで……」
何の歌だろう?どこで聴いた?
ミゲルは思い出す。これはチェーザレがフィアンメッタに書いた詩だ。
だから、歌うのをやめる。



15
ルクレツィアもマキァヴェッリも祝典に来ないと聞いて、悪態をつくチェーザレ。
でもルイ12世がスペインに敗れたので機嫌は良い。ゴンサロ・フェルナンデス・コルドバに協力して、フランスを追い出そうと考えている。

アレクサンデル6世は祝典の費用のために、もう1人のホアン・ボルジア枢機卿(the senior)を毒殺する。
晩餐会の席で、アドリアーノ枢機卿も毒殺することにする。が、アドリアーノに飲ませる毒を誤ってチェーザレとともに飲んでしまう。2人は体調を崩し倒れる。

教皇が死にかけていると知って、重体のチェーザレがミゲルに命じる。「教皇庁の財産を確保するんだ。」
ミゲルはカサノヴァ枢機卿に剣を突きつけ脅し、財宝室の鍵を奪い取り、2つの櫃をボルジアの間に移す。

教皇が崩御する。
ヴァティカンで略奪が始まる。
チェーザレはコンクラーヴェのため、ピッコローミニに接触せねばと焦る。

教皇の遺体は恐ろしく不気味に膨れ上がり悪臭を放つ。皆早々に逃げ出す。ミゲルと埋葬人だけが取り残される。
1000人の死を見て来たが、これほど怪物的な死はなかったとミゲルは思う。



16
チェーザレはコンクラーヴェに介入し、次期教皇即位後の足場を固めようとする。

  1. フランスのアンボワーズが有力なら、彼を支持する。
    イタリアが有力なら、スフォルツァローヴェレを支持しているように見せかけ、裏工作でピッコローミニを推す。
  2. 父の死にショックを受け、悔悛していることを強調する。この証明のため、ドロテアを解放し、父が使役していた30人のナポリの少女を自由にし、政治犯を恩赦する。
  3. 教会の旗手の地位を保持する。
  4. コロンナオルシーニ、サヴェッエリの動きを封じる。
  5. フランスとスペインの庇護を死守する。

しかし彼がどれだけ外交的な計算をしようと、ベッドから離れることができず、何もできない。
ミゲルはチェーザレの代わりに女性たちを解放し、秘密裏にピッコローミニを呼び、蜂起したコロンナオルシーニの兵を迎え討つ。
チェーザレはピッコローミニを取り込み、コロンナと同盟する。
コンクラーヴェの最中、ローマには軍がいてはならないという定めに従い、ミゲルはチェーザレを支えネピに向かう。ヴァノッツァとホフレも伴う。

アレクサンデル6世崩御で後ろ盾を失ったチェーザレが、さらに病で動けないという報で、反乱軍が再び立ち上がる。
ウルビーノ、カメリーノ、ペルージャ、ピオンビーノ、チタ・デ・カステッロ、ペーザロ、リミニ。次々と奪還される。
チェーザレはチェゼーナが持ち堪えているという朗報にすがり、ピッコローミニの選出が全てを変えるはずだと信じる。


ピッコローミニの教皇選出。
これでチェーザレは大丈夫だ、とミゲルは安心する。
しかし旧領主たちの反乱は収まらない。その上、スペイン人兵士たちがナポリ戦役に取られ、離脱していく。コロンナも手のひらを返す。
未だ体調のすぐれないチェーザレはローマに戻る。ピッコローミニ=ピウス3世がドメニコ・デッラ・ローヴェレの宮殿を用意してくれる。(ペニテンツィエリ宮のことですね。)

チェーザレがヴァレンシア大司教になった頃、俺たちが17歳だった時、ここに住んでいたとミゲルは懐かしく思い出す。チェーザレも思い出に浸っているのがわかる。
あの頃はチェーザレと離れたことがなかった。ピサ大を卒業したばかりのチェーザレを無邪気に慕っていた。
彼は常に笑い、冗談を言い、人々に世界に好奇心旺盛で、官能的だった。
いつ頃からか、私生児だということがチェーザレの足を引っ張るようになり、その出自に報復するかのように、彼は途方もない出世を望むようになった。
ピウス3世はチェーザレを過去に戻らせることで、謙虚さを教えたかったのだろうか。

「以前のように強くいられない。」
とミゲルに弱音を吐くチェーザレ。
「でも終わったわけじゃないよな。身体が戻ったらすぐにここを出てロマーニャに向かおう。ローマは危険だし、所領を取り戻さなければならない。」

ミゲルはゴンサロ・フェルナンデス・コルドバに会いに行く。少し話しただけで、彼が偉大な将軍の名にふさわしいことがわかる。しかし彼も、チェーザレの味方にはなってはくれない。
「私があなたならここを去ります。」とまで言われる。
食堂の女の子にも言われる。「チェーザレ・ボルジア?死んだんじゃないの?」
チェーザレは影だった、とミゲルは思う。では俺は影の影だ。

ミゲルとチェーザレは、夜に人目を避けてローマを出ることにする。
しかしオルシーニとダルヴィアーノに見つかってしまう。2人はサンタンジェロ城に避難する。
そこでピウス3世に謁見し、彼がもう長くはないことを知る。
チェーザレは次の教皇こそが鍵だ、と言う。「ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレを後押ししよう。」
驚くミゲル。「最悪の敵だろ?」
「今は敵も味方もない。道徳も美徳も。あるのは状況だけだ。政治は状況に合わせて曲げなければならない。ローヴェレは私なしでは選出されない。私の金なしではね。」

チェーザレはローヴェレと密談する。
チェーザレは影響下にあるスペイン人枢機卿にローヴェレを支持させること、
ローヴェレは教皇選出後、チェーザレの教皇庁軍総司令官とロマーニャ公爵の地位を保証すること、
ボルジアの娘とローヴェレの甥を結婚させ姻戚関係を結ぶこと、
を盟約する。


ピウス3世が崩御し、ジュリアーノ・デッラ・ローヴェレがユリウス2世として新教皇に選出される。
ローヴェレオルシーニコロンナを牽制し、ロマーニャ公爵のものをロマーニャ公爵に返すよう通達する。そしてチェーザレの住居をヴァティカンのボルジアの間の上階に設えてくれる。

チェーザレは活力を取り戻し動き出す。
「まずやらなければならないのは、私の街がどのような状態にあるのかを調べることだ。ユリウス2世の援護を受け、再び作戦を開始しなければ。」
しかしユリウス2世はチェーザレの復活を許さない。「ロマーニャは教皇庁領だ。」「征服した街は教会に返すのだ。お前には1エーカーの土地も渡さぬ。」「教皇の名において命じる、直ちにロマーニャを明け渡せ。」
チェーザレは拒否する。
「では気が変わるまで拘留する。」
ユリウス2世は最初からそのつもりだった。民兵が待機していた。捕縛されようとするチェーザレがミゲルにささやく。
「トスカーナを通過してロマーニャに入れ。全軍を率いてイモラ、フォルリ、チェゼーナ、ベルティノーロに立てこもるんだ。ボルジアの権力をお前が掌握しろ。私はユリウスと対等に渡り合ってみせる。じゃあな!幸運を!」
チェーザレはミゲルにキスする。彼は初めて俺にキスした、とミゲルは思う。自分が溶けていくのを感じる。
(これ、どういう意味だろ。キスされてとろけてんの?そんな場合?大変なこと頼まれて呆然としたことの比喩?)

たった2000騎でどうしろと?
フィレンツェ領内を通過する必要がある。そこでの戦闘は避けられない。
成功させるには旗印が必要だ。主への愛と信頼、ジャンヌ・ダルクのような愛国心。イモラをイェルサレムに見立てた十字軍!
これが成功すれば、とミゲルは思う。チェーザレと自分はダ・ヴィンチによって要塞化された難攻不落の国家を率いる兄弟のようになれる。そこにベアトリーチェも呼べる。

タッデオ・デッラ・ヴォルペとカルロ・バリオーニがミゲルに続いてくれる。残ってくれたのはもう彼らしかいない。
オスティアで指揮をとる。突破する。チェーザレ・ボルジアになったような気分になる。
進めば進むほど、気力が充実する。騎兵はブロックを形成し、突撃し、押し寄せてくる敵兵集団の中央を楔のように突貫する。通過したら2つの軍団に再編成し、敵後方への攻撃にまわる。歩兵は両翼に展開して攻撃する。

しかしタッデオやカルロの勇敢さをもってしても、フィレンツェの旗を守ろうとする猛者たちに打ち砕かれる。彼らはまるで愛する女性の名前であるかのように情熱と愛を込めて叫んでいる。「フィレンツェ!」「フィレンツェ!」。
ミゲルたち3人はフィレンツェの捕虜となる。
「俺はチェーザレ・ボルジアではなかった。」とミゲルは思う。「チェーザレの最後の、そして唯一の希望は焼き払われた。恥ずべき、本当の敗北だ。」


コルトーナに連行され、広場で晒し者にされる。「処刑人のミゲル・ダ・コレッラだ」と忌まわしげに罵られる。住民たちが唾を吐きかけ石を投げる。目から血が滴り落ちるが、両手を後ろで縛られているので何もできない。

フィレンツェの実力者の1人、ロレンツォ・フォスコロが来て、助けてくれる。旅籠のような所で目の傷の手当てをしてくれ、食事を与えられる。
「ニッコロ・マキァヴェッリが明日、きみを待っている。」
マキァヴェッリに会ったって彼は何もできない、とミゲルは思う。
チェーザレはもう終わった。きっともう、2度と会えない。
教皇はフィレンツェ人に俺を委ね裁くだろう。ベアトリーチェにも、もう会えない。

汚れた夜だ。どうやって眠れと言うんだ?
自分の存在のすべてが、吐瀉物のようにこみ上げてくる。
色、音、鉄とビロード、赤と黒と金、世界で最も美しい宮殿、教会、尖塔のある城塞、市場、商店、居酒屋、宿屋、馬具をつけた馬、制服、ガウン、衣装、宮廷衣装、十字架、ネックレス、指輪、ブレスレット、首飾り、胸当て、兜、マント、短剣、槍、薙刀、剣、いたるところの血、切断された首、刃と炎による敵味方の死、首を切られ、内臓を抜かれ、疾走と呻き、恐怖と快楽、恐怖に悲鳴を上げる女たち、平原に立つ塔、神聖な部屋、地下通路、死体で散らかった階段、閉ざされた跳ね橋、開かれた跳ね橋、穴の開いた跳ね橋、壊れた跳ね橋、血でべとついた通り、弾けた脳漿、腕から切り離された手、傷ついた男たち、抜かれた眼窩、華麗な少女たち、薄汚い太った女、お辞儀、花言葉、祝福、誓い、鍵のついたビロードのクッション、羊皮紙、紙と紙と紙、巻かれたもの、折りたたまれたもの、封印で覆われたもの、破かれたもの、羽ペン、書物、世界で最も美しい絵画、世界で最も美しい彫像、世界で最も美しい婦人、世界で最も美しい領主、牢獄、地下牢、僧侶、娼婦、大使、詩人、音楽家、建築家、技術者、盗賊、チンピラ、あらゆる年齢の王女、少女、乙女、老婦人、王冠、ダイヤモンド、紋章、聖遺物、金貨、銀貨、戦車、砲弾、砲撃機、大砲、歌、死者で覆われた平原、蝿にまみれた死人、焚き火、ワイン臭い樽、絞め殺された若い金髪の公爵たち、すすり泣き、物乞い、傭兵たちのぎらぎらした目、汚れた指、歯ぎしり、口から悪臭を放ち、エラまで髭を生やし、粗野で、酔っぱらっていて、絶妙で、教養があり、神を賛美する、神に唾を吐く者、刺された者、四つ裂きにされた者、塔のてっぺんから杭に打たれて落ちてくる者、四方八方に走り回る者、裸の女に乗る枢機卿、王妃をまさぐる付き人、そこら中に充満する煙、死の匂い、フェラーラの若者の笑い声、ウルビーノの大理石の女神、チェーザレ、風呂から出てきたルクレツィア、チェーザレ、彼にキスをするルクレツィア、チェーザレ、アレクサンデル、微笑むルクレツィア、怒るアレクサンデル、棺の中で潰れるアレクサンデル、ホアン・ボルジア、アルフォンソ・ダラゴーナ、アルフォンソ・デステ、イザベッラ・デステ、ペロット、ルイ12世、シャルル8世、ピウス3世、ユリウス2世、将軍たち、ダ・ヴィンチ、サンガッロ、ブラマンテ、ブォナロッティ、ルドヴィーコ・イル・モーロ、シャルロット・ダルブレ、ジュリア・ファルネーゼ、紫と黄色の衛兵たち、ローマ、マンマ・ヴァノッツァ、ドロテア・カラッチョーロ、フィレンツェの友人たち、フィレンツェ、アガピート、ブルカルド、ソデリーニ、サヴォナローラ、カトリーヌ・スフォルツァ、マキャベリ…
...ベアトリーチェ。



17
ミゲルは自分の敗北がチェーザレを殺してしまうと思い、打ちひしがれる。
彼は俺を頼りにしていたのに。任務を果たせなかった。
凶報を聞くチェーザレの姿を想像しては苦しくなる。

フィレンツェに移送される。タッデオとカルロとは別の馬車に乗せられ、単独で運ばれる。
「指揮官の俺は特別なのか、それとも処刑人が仲間に感染しないようにか」と思うミゲル。
(処刑人にこだわりすぎじゃない!?逆にプライドあるみたいに感じられる。)

バルジェッロの地下室に入れられる。(今のバルジェッロ美術館。当時は監獄として使われていた。)
ベアトリーチェの夢を見る。肌のにおいが鼻腔に残っているような気がする。これだけが希望につながる全てだ、と思う。

1週間後、マキァヴェッリが来る。
ヴァティカンで何が起こったかを話してくれる。
チェーザレはグイドバルド・モンテフェルトロに跪いて許しを乞うた。チェーザレはウルビーノから奪ったものを全て返却すること、ウルビーノを放棄することに同意し署名した。数年に渡った作戦が数分で無に帰した。
チェゼーナは降伏を拒否し、教皇の使者を絞首刑にして城壁に吊るした。
フランチェスコ・レモリーネス枢機卿とルドヴィーコ・ボルジア枢機卿は、ヴァノッツァとインファンテ・ロマーノ(この話ではルクレツィアとカルデロンの子)、ロドリーゴ・ビシュリエ公(ルクレツィアとアルフォンソ・ダラゴーナの子)を連れてローマを脱出した。
チェーザレはボルジアの塔に軟禁されている。

「チェーザレ様は泣いてらした。」
「チェーザレが?まさか…そんなこと続きはしない。」
「そうだね、彼は『もう一度』と気を取り直すかもしれない。しかしそれは間違いだよ。」「何を期待しているんだ、ミゲル?彼は以前のような勢いを取り戻すことはもうできない。」

マキァヴェッリは語る。
「チェーザレ様の事業は壮大で、彼は情熱的だった。情熱の力は、それを満たすために使われる手段の力と同等でなければならない。」「征服の目標は教皇庁領だけではなく、イタリア全土であるべきだったのだ。これが戦術的な欠陥だ。」
(つまり情熱に対して目標が小さかったってこと?)

「さらに、彼は外国人を引き入れるべきではなかった。フランスもスペインも。イタリアの統一はイタリアの仕事だ。」「民衆を融和させるには、優れた行政だけではなく、自由と言う理念が必要だった。これが政治的な欠陥だ。」
(これはめっちゃわかるわ。)

「指導者は民衆を味方につけ、民衆を揺り動かし、褒美を与え、時に媚びへつらい、そして民衆を罰することが必要だ。」「その時期の選択は外的または内的状況によって決まる。」「チェーザレ様は美徳の仮面を被り、犯罪のゲームをするのと同じように厳格かつ高潔に純潔のゲームしなければならなかった。これが道徳的欠陥だ。」
(第二間奏曲で言ってた愛の話と同じようなこと言ってるのかな。)

「チェーザレ様が10年20年かかっても、休むことなく軍を強化し、緊密な連絡網を作り上げ、戦いをやめなかったとしたら。彼はフィレンツェとナポリを席巻し、ミラノとヴェネツィアに反旗を翻し、イタリアの王になっていただろう。」「シニガリアでの事件は、そうなり得る未来を見せてくれた。なんという巧妙なやり口だったか!」「しかし彼はそれをやり遂げられず、失脚の準備をしてしまった。」

ミゲルはうんざりする。
「御託はもういい。チェーザレができなかったことを俺がどうにかできるか?チェーザレは殺されるのか?」
「多くの人がそう望んでいる。しかしユリウス2世は前任者と同様だと思われること望んでいない。どうすれば自分の利となるか今必死に計算しているところだろう。」

ミゲルはまだチェーザレは終わっていないと希望を持つ。
俺も殺されることはないだろう。拘留し続けることもできないはずだ。
生きているかぎり「チェーザレのような」反撃をできる状態でいたい。
「大事なのは元気でいることだ。そして時期を待て。」とマキァヴェッリも言う。「そうすれば全てが可能になる。つかむべき機会、解明すべき謎、分析すべき状況、栄光、愛も。」
「友情も、だろ?」
「さあ、それはどうかな。」


40日後、ミゲルはチェーザレがローマを脱出しナポリへ向かったという報せを受ける。
チェーザレはもう1度最初からやり直し、失ったものを取り戻そうとしている。
しかし遠く離れた場所で戦場を観衆として見ていると、もう自分がチェーザレの側で剣を取っている姿を現実的に考えられない。チェーザレのために再び処刑人として働くことも、ロマーニャを征服することも、もう考えられない。

ナポリではコルドバがチェーザレを歓迎したらしい。弟や母親とも再会できたらしい。
そしてチェーザレは今度はスペインを後ろ盾とし、教皇のためではなく教皇に対抗して、ピサとピオンビーノからロマーニャに侵攻するらしい。

ユリウス2世は怒り心頭に発し、チェーザレの財産を没収し、ローヴェレ宮(ペニテンツィエリ)を襲撃する。
そして、チェーザレの代わりに彼の処刑人を所望する。

ミゲルのもとにマキァヴェッリがやって来る。自宅に招いてくれ、奥さんを紹介してくれ、昼食をともにしてくれる。そして言う。
「明日、君をローマに移送し、トッレ・ノーナに収監する。」
ああ終わるのか、とミゲルは思う。



18
1504年5月25日。ピオンビーノに向けて出発する準備が整った夜。チェーザレはゴンサロ・フェルナンデス・コルドバに裏切られ、スペインの捕囚となった。
チェーザレは、ロマーニャで唯一抵抗し続けていたフォルリを、降伏させるよう迫られた。
チェーザレの書状により、城代ミラフェンテスはフォルリを開け渡した。
チェーザレはスペインに送られ、チンチーリャの城塞に監禁された。
チェーザレは終わったのか?
いいや、奇跡だって何だって、彼には常に期待できる。
では俺は?


教皇ユリウス2世の名において、ミゲル・ダ・コレッラは以下の者に対する殺人の容疑で裁きにかけられた。
ガンディア公ホアン・ボルジア
ビシェリエ公アルフォンソ・ダラゴーナ
カメリーノ公ジュリオ・チェーザレ・ヴァラーノとその息子たち
ファエンツァ公アストーレ・マンフレディ

公判は4日間続いた。
尋問が進むにつれ、チェーザレは正しかったことが明らかになっていった。
チェーザレが組織的に壮大な目的を持って行ったことは大規模だっただけで、周辺各国の一族が小規模に限られた利益を守るために行っていることと、何ら変わりはなかった。
ミゲルを非難しミゲルの主張に反論していた教皇派の連中も、やがてイタリアが分裂することなくひとつとなることを望むなら、ユリウス2世は、チェーザレの政策に従わざるを得ないと悟った。チェーザレのやり方を適用しなければ、教皇庁諸国は再び周辺各国に食い荒らされる。
そして、ユリウス2世がチェーザレと同じ望みを抱いていることは、火を見るより明らかだった。
チェーザレを否定できなかった。

ミゲルは自分が切れる唯一のカードを切る。全てを誠実に話すというカード。
「全てはアレクサンデル6世の宣言から始まった。教皇庁領を教皇庁のものとし、ボルジアの敵対勢力を排除する。」「チェーザレの過ちは、地位を盤石にするために充分な人数を、殺せなかったことだ。」「俺は殺してきた。処刑したければすればいい。」「行ったことに後悔はない。でももう殺人はしない。それが例えチェーザレのためであっても。」「力は最終目標ではないと思うからだ。ゴールは愛であり、優しさであり、友情であるように思う。いや、ふざけてなんかいない。」
ミゲルは泣きたくなってくる。チェーザレが終わりを感じた時泣いていたということを思い出す。
「俺は全部話した。解放するか、さもなくば吊るしてくれ。」

判決には時間がかかる。
アドリアーノ枢機卿が出て来る。アレクサンデル6世に狙われて、唯一生還した男。
「キリストの身体に槍を突き刺した男を、我々は裁いたであろうか?ミゲル・ダ・コレッラは誰でもない。真の被告人のうち、1人はティアラを被ったまま死に、1人はイベリアの囚人である。」「2世紀の間、教会は徳のない借家人が率いる商社にすぎず、神聖な精神から遠く離れていた。ボルジア家は、金と犯罪にまみれたこの教会の中で、その高い地位を最大限に活用しただけだった。」「彼らの前任者たちはエルサレム奪還作戦を実行し、アレクサンデルはイタリア奪還作戦を実行した、それだけだ。」「枢機卿の帽子を売り、他の家族から金を奪い、天国を市場と化し、人々の不幸よりも自分たちの享楽に金を費やした。ヴァティカンをめちゃくちゃにし、叔父や甥を好きに養い、半島に私生児を蒔いた。それがどうした?ユリウス2世が同じことをしないと思うか?」「ローマが声をひそめて言っていることを、私は声高に言っているだけだ。」「私はボルジア家が嫌いだ。あなた方にも敬意はない。私はこの裁判を特異なものだと思う。ピラト(キリストの身体に槍を突き刺した男の名前)のように無謀でなければ、この男を磔にすることはできないのだから。」

ミゲルは釈放される。
マキァヴェッリが待っていてくれる。
「ミゲル、娼館へ行こう。嫌?行った方がいいよ、ひどい顔をしている。まるで歩く死人だ。ベアトリーチェを怖がらせる前に、まず生きていることを証明した方がいい。」
(ミゲルは実刑判決を受け牢に入っていたと言うのが定説だけど、1504年5月ローマでの裁判から1506年春まで彼についての記録がないことから、そう推測されているだけなので、無罪放免されてた可能性もある。
この話はそっち説をとってるんですね。珍しいと思う。)


ミゲルがフィレンツェに着いた時、チェーザレがメディナ・デル・カンポの城塞から脱走したという報が伝わる。(どんだけ長く娼館にいたんだ。)

たちまちイタリア中が緊張する。
チェーザレは何を企んでいる?これは良い報せなのか?それとも?
どちらに転ぶかはわからなかったが、それは必ずやってくる。
アレクサンデル6世が死んだ時、毒で半身を打ちのめされた教皇の息子が、軍を再建するとは誰も信じられなかった。

しかしミゲルはベアトリーチェに拒絶されていて、暗闇の真っ只中にいた。
ベアトリーチェはミゲルが自分の本当の姿とローマで起こったことを話した途端、大きな青い瞳を恐怖に見開いた。
マキアヴェッリがミゲルをフィレンツェの民兵隊長に任命しても、見直してくれなかった。
チェーザレの伝説がよみがえったことも、気にも留めなかった。
どんな言い訳も受け入れてくれなかった。
「何を言っているの?貴族の家では、征服、相続、情熱の問題を解決するために犯罪を犯すのが当然なの?だからあなたは自分もそれに倣い、真似をするのが当然だと思ったの?」「上流階級と下流ではモラルが違うと言うの?誰がそんなことを言ったの?誰が決めたの?」「初めて会った時、あなたは私をレイプした。何の権利があって?私はあなたを許した、いいえもっとよ、私はあなたを愛していた。あなたは人間に見えたのに。」
もう悪いことはしていない、裁判でも無罪になったと言ってもベアトリーチェには通じない。
「私にとってはもう、あなたはチェーザレの死刑執行人でしかないわ。消えて、さもなくば私を殺して。殺しなさいよ、さあ。」
「そうしたいよ。」
「生業ですものね?」

チェーザレに対する期待とともに、ミゲルの人気も上がってくる。手記を依頼されたり、女性ファンが家までやって来たりする。でも死にたいという暗い気分から逃れられない。
しかしやはりチェーザレに会いたいという気持ちが芽生えてくる。チェーザレが現れてくれることを願う。
雷鳴轟き、旗が風にはためき、兵士たちが口々に彼の名を叫ぶ中、鎧をまとった教皇庁軍総司令官が現れてくれることを。


「ミゲル、うちに来て欲しい。」とマキァヴェッリが言う。
「チェーザレ様が亡くなった。」


ミゲルは衛兵の部屋で中尉と仕事の話をしていた。ミゲルはすぐに理解できなかった。何かの誤解だと思った。
「チェーザレが?」
「そうだ。」

マキァヴェッリの家で、彼は詳細を話してくれる。
チェーザレはナヴァーラで戦死し、ヴィアナの教会に埋葬された。
「いつ?」
「ひと月以上前に。」
「チェーザレの遺体は今どこに?」
「詳しくはわからないよ。」
気がつくと、マキァヴェッリと彼の妻マリエッタが自分をのぞき込んでいる。ミゲルは気を失っていたのだ、と気づく。
頭の先から爪先まで震えていた。首筋を涙が流れ落ちる。


そして今、自分はここにいる。手記を読み直しているところだ。
混沌としているなと思うけれど、人生って混沌としているものだよな?

ルイ12世は大虐殺でジェノヴァ共和国を乗っ取り、元首と60人の有力者を斬首させ、ミラノを手に入れた。
マクシミリアンはヴェネツィアに目をつけている。
ユリウス2世はチェーザレがアレクサンデルの名において征服したすべての地を、自分の名において回復しつつある。
勝者は常に賛美される。敗者は負けたのだから、全ての落ち度をかぶる。論理的だ。
誰もが金曜日に刺し違える場所をよりよく決めるために、月曜日にお互いを愛撫する。
条約を破りやすくするために、柔らかい紙に署名する。

マキァヴェッリは言う。
「死者を出さずに成功する者がいるか?それに、死者に罪はないのか?」「誰が無実なんだ?誰が完全に罪を犯しているのか?弁解の余地がないのは誰か?」
「イエス・キリスト自身に罪はないのか?
聖書の700ページを通して、神自身が、先史時代における最もおぞましい大虐殺の責任を負っているではないか?
神よ、あの大馬鹿者!
カインがサツマイモの代わりにヒヨコマメを差し出したからと言って、カインを非難した奴だ!
神は存在せず、私たちが楽しんでできるだけ長生きすることだけが合法だと言ってはどうだろう?チェーザレ様はそう言ってらした。」

そうだな、とミゲルは思う。
指揮官としての地位、フィレンツェでの権力、そしてベアトリーチェの愛を、できる限り長く享受するつもりだ。
彼女は俺を許してくれた。
彼女と愛し合うたびに、天の川を天球に吹きかけるような気持ちになる。(これは射精の比喩ですか?)
彼女は処刑人の子を身ごもっている。
それを除けば、もう俺は何事にも興味がない。
しかしこの幸福を妨げるものがあれば、何であろうと俺は殺す。


<終>





ミゲルは冒頭で「俺は自発的に殺したことはない。全部チェーザレの命令だった」と言ってるんだけど、ラストでも自分のことを「処刑人」と言い、物語を「俺の幸福を妨げるものは殺す(Et au premier obstacle contre mon bonheur, je tue.)」と言って締めてる。
矛盾してるよね。

ベアトリーチェと人生を生き直そうとして、書き始めでは処刑人であった自分を否定してるけど、
どうあがいても俺はチェーザレ・ボルジアの処刑人なんだ。
それをラストでは自ら自覚したんだろうか。
物語的にも結局「チェーザレは間違ってない」って言ってるもんね。(人間も神もみんなチェーザレと変わりはしないっていう皮肉でもあるんだろうけど。)

ミゲルの手記という設定だから、ミゲルは書いているうちに自分の気持ちを整理して、冒頭とは異なる理解になった。
そういう意味を込めて、故意に始めと終わりで変化させてるんなら、作者の目論見、すごいな。


あと、ベアトリーチェが「匿名の手紙に告発され」、フィレンツェの牢に入ってたの。手紙書いたの絶対チェーザレだろ…!と思ってたけど、犯人については言及されませんでした。
でもチェーザレじゃない!?
ミゲルとの仲を邪魔したかったんだろうけど、これのおかげでベアトリーチェはミゲルに感謝して気持ちを翻すんだよね。
チェーザレ、策に溺れとるもん。




「Corella. L'ombra del Borgia」 Federica Soprani Kindle版 2023年

2013年に出版されたミゲル・ダ・コレッラを主人公とするボルジア本。10年経ってやっとKindle版が出た!
全258ページ、イタリア語。(近々英語版も出る予定のよう。) プロローグ、第1章〜第14章、エピローグ、から成る。
タイトルは直訳すると「コレッラ・ボルジアの影」
1505年7月、サンタンジェロ城に囚われているミゲルのもとにマキァヴェッリが訪れる。ミゲルは彼に、自分の来し方とチェーザレとの出会いを話し始める。


1章が短く、場面場面を切り取ったような描かれ方をするので、読みやすい。ト書きではないけれど、戯曲っぽいと思う。
描写も詩的と言うか…叙情的。しかし情感たっぷりすぎて、メロドラマのよう。
て言うか、これ、そういうジャンルの小説なのかな。だってこの小説のミゲル、カテリーナ・スフォルツァに惹かれて、やっちゃって、愛に煩悶するんですよ。そしてそれをチェーザレに知られて、三角関係になる。何じゃこれ。ロマンス小説じゃん!
ルクレツィアに対しても、騎士道精神的恋愛感情持ってるし…。ハーレクインって馴染みないけど、何かそれっぽい雰囲気。


ミゲルのキャラが、詩作もするような文学的素養のある男、哲学者、人文主義者でもある「ヒューマニストの殺人者(Sicario umanista)」。
時代的にあってもよかっただろうに、意外となかった設定。
チェーザレは「芸術的教養のない男」とイザベッラ・デステに言われてるし、ルネサンス時代の君主にしては宮廷にも文化的香りがあまりないもんね。
ミゲルも怜悧な暗殺者として描かれることはあっても、完全に体育会系で文化系的要素はまずない。
まあ、ボルジア舎弟のスペイン人なんて、粗暴で愚昧と思われてたんだろな…。チェーザレの右腕が馬鹿のわけはないと思うけど、確かに文化人のイメージはない。
いいじゃん!ナイス設定!と思ったんだけど、叙情的なヒューマニストミゲル、ちょっとキレイすぎて…。

特にアルフォンソ・ダラゴーナ暗殺。
アルフォンソは知的なミゲルのこと敬愛してて、彼に殺されるんなら本望とばかりに抵抗もせず「ルクレツィアを頼みます」とか言うの。「あなたの手にかかって光栄です」「彼らが他の誰かを送り込んでいたら耐えられなかった」って。
はあ!?うっさんくさーー!
キレイすぎて喜劇かと思った。

しかもミゲル、楽器の演奏とか歌までできんの。盛り込みすぎじゃない!?
最後はカテリーナ・スフォルツァの息子(ジョヴァンニ・デッレ・バンデ・ネーレ)の家庭教師になってた。もう笑ってしまう。
でも、そういうロマンス小説の男優ぽい出来すぎキレイミゲルがツボれば、めっちゃ楽しいかも。

チェーザレとの関係ももちろん叙情的なので、2人の絆も濃い。
ミゲルはピサ大学でチェーザレと出会い、「地上でも天国でもチェーザレの歩む道がどこであろうと、そばにいる」ことを誓う。いいね!ここはね!
ちなみにレミーロ・デ・ロルカもピサ大の同級生。この設定好き。新鮮!

ミゲルはずっとチェーザレを信奉してるんだけど、カテリーナ・スフォルツァもチェーザレに似てる設定なんですよ、気質や生き方が。
だからミゲルは惹かれたのか…?そっか………
…って、言わせたいのか!?いや!納得できかねる!カテリーナ・スフォルツァって……趣味悪すぎて逆に心に響いたわ。

チェーザレもアストーレ・マンフレディを凌辱したりするキャラだし。チェーザレにそういう少年を相手に…な性向、似合わんくない!?
カプアで、ミゲルがチェーザレと間違われて殺されそうになるエピソードが、チラと描かれているのは大変良かった。こういうエピソードこそ小説に盛り込んで欲しい。ありがたい。


主人公をヒューマニストとしてるだけあって、比喩が歴史や美術や宗教なんかになぞらえてあって、凝ってる。
「イフィゲニアのように犠牲となった」とか「ホロフェルネスのように首を差し出す」とか「チェーザレが見ていたのは、もはやマラトンの平原ではなく」「賢明なベリアル」とか。

ミゲルは父親が早世してて、家族は母親と妹たちだけという設定。これ、わかる!と思った。ミゲル、女系家族で育ってそう。特にこのミゲルは。女の人がそばにいるのが似合う。優男だから?

ミゲルの呼び名がミケロット(Michelotto)じゃなくてミケレット(Micheletto)。
ミケーレ(Michele)にそのままttoを足してるの、日本語愛称でも見られる「◯◯っち」みたいな感じなのかな?ダサかわいい。

最後に疑問なんですけど、ロレインって必要だった?
彼は何なの?ミゲルの良心とかヒューマニスト的側面の象徴?ロレインいないとミゲルのヒューマニスト的描写減るけどさ…。私にはよくわからない存在だった。


女性向け大衆恋愛小説っぽいボルジア家、綺麗だし味わい深くはある。珍味だと思うけど。
チェーザレの野望に依存し生きていたミゲルが、自分だけの幸福(カテリーナ・スフォルツァとその息子ジョヴァンニとの暮らし)を見つけるまでの物語、と見れば、史実を上手く取り入れて上手く構成された良い物語になってると思う。それはでも本当一瞬で、せつない…と思えるかも。2人の愛に共感さえできればね!!
ミゲルとカテリーナ・スフォルツァの濡れ場が気になる方は是非。(そんなシーンが多い訳ではありません。)






ルクレツィア関連

「ルクレツィア・ボルジア」
 マリーア・ベロンチ 大久保昭男 訳 河出書房新社 1983年

父ロドリーゴの教皇選出(1492年)からフェラーラでの死(1519年)までの、ルクレツィアの人生。

傑出した人物であった父と兄を通してのルクレツィアでなく、ルネッサンス期に生きたひとりの女性としてのルクレツィア、という視点で描かれている。

周囲の女性陣、ジュリア・ファルネーゼやアドリアーナ・ミラ、サンチャ・ダラゴーナ、アンジェラ・ボルジアなどが、他のボルジア本より頻繁に登場。

女性側から見たボルジア家の盛衰、といった捉え方でも読める。
もちろんチェーザレもしっかり登場する。ミゲル(ミケレット・コレーラ、ドン・ミケレットと表記されている)は残念ながらビシュリエ公暗殺とアレクサンデル死後くらいしか出番がない。意外とホフレが目立っている。

たくさんの資料(手紙、年代記者たちの記録)を網羅して、できうるかぎり史実に忠実に公正に、という著者の姿勢が感じられて、好感と信頼がもてる。ルクレツィアのキャラクターも、過度に可憐さとロマンティシズムに彩られておらず
、無駄に軽佻浮薄でもなく、逆に父と兄の才を受け継ぐ大器の持ち主でもなく、あるがままを描写したといった描き方がされている。

ただ、そのように全体的に客観的で淡々としているので、ドラマティックな出来事(例えばシニガリア事件とか)もあっさりしていて、読み物としての起伏には欠ける。まあ、こういう歴史物語はたいていそんな感じだけど。

入り組んだ人間関係や、衣装・調度についての入念な描写が、翻訳時に割愛されているというのが非常に残念。そういうものをこそ求めるマニアもいるのに!




「ルクレツィア・ボルジア(上)ルネサンスの妖精」
 中田耕治 集英社文庫 昭和59年

ルクレツィア・ボルジア (上) (集英社文庫) 1480年のルクレツィアの誕生前後から、1501年のエステ家との婚姻誓約成立までを描く。ルクレツィアに特化されてはいるが、ボルジア家全体を語っている。
特徴的なのは、さまざまな書物からの引用の多いことと、著者の想像力を駆使して描いてる部分の多いこと。特に性生活における著者の想像はたくましく、笑える。
「チェーザレはサンチャの性感をはじめてよびさましたと言ってよい」って・・・なんでわかるんだ!?
妄想と言ってもいいようなその想像力は、大いに筆を走らせていて、ホアン暗殺事件の首謀者を推理したりしている。・・・なるほど〜そうくるか〜。

詳細に歴史を語っているわりには、著者の妄想に助けられてか、読み物としておもしろく、とても読みやすいと思う。
ただ、ペーザロ伯を公爵としていたり、裏表紙のあらすじでルクレツィアの誕生日を1840年と誤植していたり(うちにあるのは初版だから?)、校正が甘いのが気になる。1840年て・・・がっくりくるよ・・・




「ルクレツィア・ボルジア(下)華麗なる恋と死」
 中田耕治 集英社文庫 昭和59年

ルクレツィア・ボルジア (下) (集英社文庫) ルクレツィアがローマからフェラーラへ移り、物語もボルジア家のドラマから、エステ家のドラマへ移行する。 ピエトロ・ベンボが登場し、ドン・ジュリオの事件が起き、イザベッラ・デステが暗躍する。
が、しかし、マジョーネの反乱や、チェーザレの没落、捕縛、メディナ・デル・カンポからの脱走、それに続く死など、重要なエピソードはしっかり押さえてある。特にシニガリアの裏切りの際の、人物配置図が載せられているのは、とても嬉しい!しかし、おおまかな位置しかわからないのが難点。出典が何なのかも記されていないし。うーん。

著者の想像力は下巻でも健在で、こちらではエルコレ・ストッロツィ暗殺の犯人を推理している。
ルクレツィアについては、偏執的とも思える愛情を示す著者だが、ユリウス2世に対しては、ちょっと公正さに欠けるんじゃないかと思うくらい、強烈にこき下ろしている。
でもその偏りぐあいが、ルクレツィアに(ひいてはボルジア家に)対する「親バカ」っぽくて、ほほえましい気もする。
参考文献のひとつに、SACERDOTE,GUSTAVOの名が挙げられているのは、特筆すべき事項かも。


※「CESARE BORGIA」SACERDOTE,GUSTAVO・・・世界的に最も定評のあるチェーザレ・ボルジア伝とされ、惣領冬実「チェーザレ」の主要参考文献のひとつ。




「ルネサンスの女たち」 塩野七生 中公文庫 1973年

→ その他の人々




「Lucrezia Borgia」 Sarah Bradford Penguin 2005年

Lucrezia Borgia: Life, Love and Death in Renaissance Italy 英語。
歴史学者である著者は、エリザベス女王やダイアナ妃の伝記で有名。チェーザレの伝記も書いている。






ボルジア家関連

「ボルジア家 悪徳と策謀の一族」
 マリオン・ジョンソン 海保真夫 訳 中公文庫 1987年

悪徳と策謀の一族なんてタイトルにつくわりには、ボルジア家に好意的。邪悪な時代の邪悪な一族という裁定は多分に独断的であり、彼らの行った以上の悪行が、イタリアの宮廷のいたるところに見られる、と言っている。本当にそうだと思う。

ボルジア家の主な人物(ボルジア家栄達の礎となるカリスト(カリストゥス)3世、ロドリーゴ、チェーザレ、ルクレツィア、そして聖人となるフランチェスコ)など数人に焦点をおいて書かれているため、チェーザレの人生についてはすごく早送りで少々物足りない。が、ボルジア全体の歴史を見る上では、シンプルにまとめてあって、わかりやすいと思う。

ただ校正が甘いのか調査が甘いのか、誤った記述がけっこう多い。(私の持ってるのは7版だけど)フラミニア街道→エミーリア街道、イオニア海→ティレニア海(P47)だし、享年32歳→31歳(32歳の年だけどまだ誕生日きてないから!)(P263)だし。細かいけど、歴史なんてあいまいな部分ばっかなんだから、こういう「ゆるぎない事実」のところはしっかりして欲しい。




「ボルジア家」 イヴァン・クルーラス 大久保昭男 訳 河出書房新社 1989年

タイトルが同じなだけあって、構成はマリオン・ジョンソンの「ボルジア家」と似ている。ハティヴァのボルハから始まり、時系列順にできごとが語られ、聖人フランチェスコで終わる。が、こちらの方が詳細。(マリオン・ジョンソンの「ボルジア家」が全325ページなのに対し、こちらは全507ページだし(あとがき、資料など含む))しかし!文章が硬く少々読みにくい。

気になるのは「ミケロット・コレッラの甥」が登場すること。(P336)
甥!?甥がいたんですか!?ということは兄弟姉妹そのいずれかはいたってこと!?彼または彼女はどんな人なの!?その甥本人は!?1502年にミゲル(ミケロット)たちと行動をともにしてるってことは、甥はある程度の年齢に達しているということで、すなわちミゲルはけっこう年くってたってこと!?(すごく年上の兄または姉の子、ということもありえるけど)
でもまあ、誤訳とかそういうとこなのかな…。

記述はしかし、あっさりと何の説明もなく終わっている。年代記者〜!もっとコレッラ家のことも記しとけ!!
コレッラ家はともかく、ボルジア家の歴史とチェーザレの生涯はしっかりとよくわかる。マリオン・ジョンソン版の補強版といった感じ。




「ザ・ファミリー」
 マリオ・プーヅォ 加賀山卓朗 訳 ソニー・マガジンズ 2003年

ザ・ファミリー (ヴィレッジブックス)「ゴッドファーザー」の原作者が、ボルジア家を原初の犯罪組織(ファミリー)として捉え、描いた作品。

笑える!だって脚色がめちゃくちゃなんだもん。
ミゲルはロドリーゴの甥で、チェーザレの側近というよりロドリーゴの使いっぱだし、カテリーナ・スフォルツァの陰部を指差すエピソードはチェーザレのフォルリ征服時になってるし、レオナルド・ダ・ヴィンチはファエンツァの攻撃に協力してるし(イヴァン・クルーラスの「ボルジア家」でもそうなってたけど、ダ・ヴィンチがチェーザレの下で働くのは1502年の夏からというのが正しいはず。)、ジュリア・ファルネーゼはチェーザレより八つも年長だし、・・・もう細かいところは数えきれない。何より暗躍するドゥアルテ・ブランダオって誰だ!?

英語圏ならではっぽい呼び名も受ける。チェーザレ→チェズ、アルフォンソ→ソニー、ヴィテロッツォ→ヴィトー、ジョヴァンニ→ジオ。・・・。

物語はロマンス過多。チェーザレ&ルクレツィアをはじめ、チェーザレ&カテリーナ・スフォルツァ、ルクレツィア&アルフォンソ、ホフレ&サンチャ・・・などなど。

原初の犯罪組織の物語、とするんなら、もっとチェーザレとロドリーゴの機略縦横の政争に重きをおいた方が、よかったんじゃないのか。フォルリ攻略以外の抗争部分が、あまりにもあっさり描かれすぎていて、さみしい。そしてどうせ脚色するんなら、史実無視でいいから、もっとエンタテイメントに徹してほしかった。
他のボルジア本では影の薄いホフレは、地味ながらも個性を発揮していて、存在感があると思う。

エッセイ風のあとがきが、ボルジア家に対する愛と情熱が感じられて好感がもてる。




「ボルジア家の黄金の血」
 フランソワーズ・サガン 鷲見洋一 訳 新潮文庫 平成2年

サガンがこんな作品を!?と驚いたら、サガンの書いたのはセリフのみで、それをテレビドラマ用に脚本化、ノヴェライズしたもの、だって。なるほど、そう言われてみれば確かに戯曲っぽいつくり。1977年の作品。

アレクサンデル6世の登位からチェーザレの死まで、一応の史実を押さえながら物語は進むが、中心となるのはチェーザレとルクレツィアの近親相姦愛。2人をつなぐボルジア家の黄金の血。

でも歴史部分も恋愛劇部分も、なんだか中途半端でもり上がりに欠け、読み流してしまう。せっかくのボルジア家を舞台とするフィクションなのに、感情移入できない。
ダ・ヴィンチもマキァヴェッリもエルコレもとりあえず出したって感じだし、兄妹の禁断愛も甘さやせつなさが全然ない。クールなルクレツィアはけっこう好きだけど・・・。チェーザレの一人称が「わし」なのも・・・どうよ?

氷栗優「カンタレラ」の仮面の暗殺者ミケロットと川原泉「バビロンまで何マイル?」の去勢男のミケロットは、この作品の影響下にあると思われる。




「ボルジア家」 クラブント 富田幸 訳 ゆまに書房 2008年

昭和8年に刊行された「昭和初期世界名作翻訳全集」第4期の193巻。2008年に復刻されたもの。原作は1928年に書かれた「Borgia - Roman einer Familie」。

訳は初版刊行時のまま無修正で、古い漢字や旧仮名づかいもそのまま採用されている。ので、とても読みにくい。
「さりながら日夜淫逸のみに思ひを馳する年配にはも早無之候ぞ」とか。難しいよ!
人名表記も古い。セザアレ、ジュアン、ギオフレッド、ギオワ"ニ、ロエ"レ、デゥシェム、サワ"ノロラ、・・・とりあえず誰かは判るけど、どうして「ワ」や「エ」に点々がつくのか?ヴァノッツァにいたっては、ジュノという名になっている。なぜだ。
国名地名もややこしい。西班牙、土耳古、羅馬、シヰタ・カステラナ、ノワ"ラ・・・などなど。

内容は、一応史実を交えてはあるが、ファンタジー。としか言いようがない。
ボルジア家の祖は、ゼウスに追い立てられ西班牙へ逃げたという半人半馬だし、ラストは地獄の門を叩き追い返されるフランチェスコ・ボルジアが登場する。

しかし妙なマニアックさを持っていて、アレクサンダアとサワ"ノロラのやりとりなど、とても細かい。フランセスコ・レモリノも登場するし。というか、サワ"ノロラのエピソードにページを取りすぎだよ。

尊大でアレクサンダアも手玉にとるルクレシアが新鮮でよかった。セザアレの存在感は薄い。ミケロットは1行だけ登場。
アストーレ・マンフレディの恋人が、ボルジアを恨んで・・・という解釈は、そこをもっと掘り下げて創作してくれればおもしろかったのに、と思う。




「ボルジア家の人々 上」 マーカス・ヴァン・ヘラー
五味寧 訳 あまとりあ社 昭和51年

現在は「背徳のボルジア家〈上〉」 というタイトルで富士見ロマン文庫から出ているようです。訳者も村社 伸という方に変わってます。
ボルジア家の人々を使って描いているエロ小説です。一応歴史的出来事が描写されていて、上巻はロドリーゴが教皇に選出される少し前から、チェーザレの結婚が決まるまで。でもね・・・これが・・・ひどい・・・。
組み合わせは、
ルクレツィア×チェーザレ(ロドリーゴにそそのかせれて。しかも彼は2人をのぞいている)
ルクレツィア×ロドリーゴ
ルクレツィア×ホフレ(馬上で)
ルクレツィア×インノケンティウス8世(なぜか3世になっているけど・・・ありえんやろうよ・・・)(しかも彼はルクレツィアとのセックスが元で死に至る)
ルクレツィア×ジョヴァンニ(ホアン。兄の。長兄という設定)
チェーザレ×町娘(強姦の上、殺害している)
ルクレツィア×修道院の少女(レズ)
チェーザレ× カルロッタ(強姦)

・・・やりまくっていますが、エロ描写が全然よろしくありません。具体性に欠けて、何をやってるのかよくわからないし。ちっとも使えないと思います。
読みやすくて、気もちが入ってなくてもパーッと読めることが長所でしょうか。

あまりにしょーもないので、富士見文庫版を買う気がしないのです・・・。




「ボルジア家の人々 下」 マーカス・ヴァン・ヘラー
五味寧 訳 あまとりあ社 昭和50年

イモラ、フォルリ進撃からヴィアナでの死まで。エロ以外の物語が多少描かれ、上巻よりは読める。しかしやはりほとんどは、みんなあっという間に感じてイってしまう、しょぼいエロシーンばかり。ふう。
今回の組み合わせは、
チェーザレ×ジプシー女
チェーザレ×カテリーナ・スフォルツァ(やっぱり出たか、って感じですね)
チェーザレ×村娘(処女)
ドロテア×アルファロ公爵(誰?グイドバルド?)(きっと架空の人物ですね)
チェーザレ×ドロテア
チェーザレ×ルクレツィア
ルクレツィア×ユリウス2世(!!この組み合わせは意外!びっくりした)×リミニ枢機卿(誰?マラテスタ家の人?枢機卿いた?いないよね?・・・架空の人か)
チェーザレ×スペインの未亡人(SM)

フランス王がルイ8世となっていて脱力・・・。著者のマーカスさん・・・どういう人なの?ラストページの紹介に、歴史ポルノの巨匠って書いてあるけど。他にも書いてんのかよ、こういうくっだらないの!マ〜カス〜
ちなみにミゲルは一切いません。ミゲル×誰か(誰がいい?ルクレツィアだとありきたりすぎだよね・・・)もあってよかったんでは?いや・・・要らんか。




「血ぬられた法王一族」 桐生操 中央公論社 1986年

法王の庶出の息子ホアン・ボルジアが殺害された。大々的な捜査が行われるが、犯人は不明のまま事件は闇に葬られる。
5年後、フィレンツェの使節としてイモラを訪れたマキァヴェッリは、真相の究明をレオナルド・ダ・ヴィンチに依頼する・・・。
ホアン暗殺を主題にしたボルジアミステリー。

桐生操にこんな作品があったことに驚いた。なんて素敵な設定!萌える!おもしろそう!もっと有名でいいのに!

・・・が。う~ん、内容は今ひとつ・・・かなあ。
とにかく「どっかで読んだ」と感じる文章が多すぎる。塩野七生と中田耕治両氏の作品からの引用をしすぎ。もう少し独自の表現で描いてほしかったよ・・・。
導かれる真相もインパクトと説得力に欠ける。

ボルジア本としての内容は薄いし、ミステリーとしての完成度も低い。
だがしかし「ホアン殺人事件を、マキァヴェッリを助手として、ダ・ヴィンチが解く」という設定は、やっぱりとっても魅力的。
「そこだけ」なんだけど、「そこだけ」で読ませる・・・と言えないこともない。そう感じるのは、ボルジア好きだけかもしれないけど。






その他のボルジア家メンバー

「アンジェラ・ボルジャ」
コンラッド・フェルディナンド・マイヤー 伊藤武雄 訳 岩波文庫 1949年

絶版になっている入手困難なボルジア本。が、国会図書館で閲覧することができる。

全208ページ。本文は180ページまでで、残りは著者マイヤー(マイエル)についての解説。
1949年、昭和24年発行の本なので、古い漢字の読みが難しい。が、前後の文章から推測できるので、内容を理解する妨げになるほどではない。
地の文が少なく、ほとんどが会話文で進んでいくので、戯曲のようにも感じられる。

タイトルに、ルクレツィアの侍女であったアンジェラ・ボルジアの名が冠されているが、主人公と言えるほどの活躍はない。(巻末の解説にも「この作に主人公はない」と書かれている。)彼女についての情報もほとんどない。
アンジェラをめぐって対立する男たち(イッポーリト、ジュリオ、フェランテ)の物語と、ルクレツィアを囲む男たち(アルフォンソ、ベンボ、ストロッツィ)の物語が基軸となって描かれる。ルクレツィアのフェラーラへの輿入れから始まり、ドン・ジュリオの釈放(のようなもの)で終わる。

史実を基にされてはいるが、フィクション色はかなり濃い。物語の冒頭、ルクレツィアのフェラーラ行きの時点で、チェーザレはスペインに幽閉されているし、ドン・フェランテは・・・を図る。チェーザレはストロッツィを側近にと乞うし、ラストはアンジェラとドン・ジュリオが・・・・・・。ううむ。
他にも、脚色されていて(というより誤っていて?)「え?」と思う部分が多い。そこが面白さであると言えるかもしれないが。

泰然自若としたルクレツィアが素敵。アンジェラは真面目な小娘といった感じ。
ジュリオは放蕩者だが純粋な若者。イッポーリトは思い込み激しくストーカーのよう。フェランテはひねくれていて病的な感じ。

塩野七生「愛の年代記」に収録されている「ドン・ジュリオの悲劇」に、ルクレツィアやストロッツィを絡ませ、異なる人物設定、異なる演出、異なる解釈で述作した、というような作品。


国会図書館での閲覧は「マイクロフィッシュ」になります。
古い文献なので、そのようにして保存しているようです。
(マイクロフィッシュ=マイクロ画像を格子状に配列したカード状のフィルム。文献・資料などの管理に用いられる。)
マイクロフィルムリーダで所望のコマを拡大して読みます。が、リーダーの性能が悪いのか、そういうものなのか、文字がぼやけていてとても読みにくいです。目が疲れる!
読む姿勢が、リーダーの画面に身を乗り出すようになるので、首や肩も疲れます。
そんなに長くないので、3、4時間で読了できると思います。

複写を申し込むと1枚30円でB4サイズにコピーしてもらえます。
本文のみで約98コマ×30円=3,000円弱です。




「The Borgia Bride」 Jeanne Kalogridis HarperCollins Publishers Ltd 2009年

The Borgia Bride 英語。
サンチャ・ダラゴーナを主人公としたボルジアロマンス。






一部ボルジアが登場するもの

「神の代理人」 塩野七生 中公文庫 1975年

LINK 全4章。4人の教皇についてのそれぞれの評伝。

最後の十字軍(ピウス2世)
アレッサンドロ6世とサヴォナローラ(アレクサンデル6世)
剣と十字架(ユリウス2世)
ローマ・16世紀初頭(レオ10世)

本の厚さ(解説含み617ページ)とタイトルにとっつきにくさを感じてしまうが、読みやすく、難解さはない。のに、内容は濃い。巻末の参考文献も1次史料からして膨大だし。
著者の薬籠中のものであるイタリア・ルネサンスの時代であるから、複雑な時代をこのように平易に描けるのだろう。

微細に描かれる教皇の動静は、活き活きとしていて、空気感まで伝わるよう。教皇たちそれぞれの性格まで、浮いて見えてくる。特にレオ10世の章。会話文の多い構成なので、小説のように楽しく読める。

がしかし、著者の私見がやや入りすぎているように思う。いくらなんでもアレクサンデルに甘すぎじゃない?逆にユリウスには厳しすぎる。好悪があるんだろうけど。

ルネサンスに君臨した4人の教皇の治世を通して、チェーザレ前後の教会世界、イタリアと西欧の動きを知ることもできる。お勧め。




「愛の年代記」 塩野七生 新潮文庫 1978年

愛の年代記 (新潮文庫) [文庫]




「毒薬の手帖」 澁澤龍彦 河出文庫 1984年

毒薬の手帖 (河出文庫 し 1-6 澁澤龍彦コレクション) [文庫] ギリシャ・ローマ時代から近代まで、主にヨーロッパの、毒薬に関する歴史エピソードが描かれる。全13章。

10数ページから成る「ボルジア家の天才」という章で、チェーザレと「カンタレラ」について言及される。
が、内容は悪徳と策謀の一家ボルジアという旧来のイメージに則ったもの。
ジェーム王子を皮切りに、ジャンバッティスタ・オルシーニなど多くの枢機卿を毒殺し、チェーザレ父子はカンタレラを誤飲して病に伏した、とされている。

うーん。いや、それはそれでいいんだけど・・・。嘘と言い切れるものではないし。
だけどボルジアの章にかぎらず、全体的に、噂話をそのまま書いたような内容なんだよな。

毒薬、という切り口でせまった各国の歴史ゴシップ記事といった感じ。スキャンダラスでやや眉唾。
もともとは1963年に発行されたもの。古いから、信憑性に欠けるように感じるのかな。

かと言って、決してつまらない内容ではない。古いわりには文章も簡易で読みやすいし。
いろんな人が幅広く登場するので、ある程度西洋史に通じているとより楽しめると思う。(有名人のゴシップ雑誌も、本人を知ってる方がさらにおもしろいもんね。)




「世界悪女物語」 澁澤龍彦 河出文庫 1982年

世界悪女物語 (河出文庫 121B) [文庫] 12人の「悪女」について描かれる。1人あたり約20ページ。
ルクレツィア・ボルジアがトップバッターで登場。(「ルクレチア」と表記されている。)
悪女・・・そう表題されているだけあって、淫乱で残酷な古典的ボルジア家像にのっとって描かれる。聖職売買、近親相姦、兄弟殺し、カンタレラ。
デュマの小説とユゴーの戯曲、クリスチャン・ジャックの映画(どれもボルジアの退廃を描く作品)を主な参考として書かれているようだから、まあ、そうなるか。
ただし著者はボルジアに対して好意的。
淫靡な「ボルジア家」についてさらりと読むには最適。

その他の11人は以下のとおり。
エルゼベエト・バートリ
ブランヴィリエ侯爵夫人
エリザベス女王
メアリ・スチュアート
カトリーヌ・ド・メディチ
マリー・アントワネット
アグリッピナ
クレオパトラ
フレデゴンドとブリュヌオー
則天武后
マグダ・ゲッベルス

簡潔にまとめてあるので、気軽に読め、すぐに読了できる。
歴史好きな方には今さらな有名人ばかりだが、魅力的な人物列伝として楽しめると思う。




「残酷の世界史 あまりにも恐ろしすぎる血塗られた歴史物語
瑞穂れい子 河出書房新社 2005年





その他の人々

→ その他の人々


時代背景・地域・美術

→ 時代背景・地域・美術


漫画とDVD

→ 漫画とDVD






国会図書館の利用法

絶版になっていて、入手困難なボルジア関連本を、閲覧することができます。満18歳以上であれば国籍を問わず誰でも利用可能です。
個人への館外貸出しは行われていないので、閲覧室での読書となりますが、資料の複写を申込むこともできます。(有料)


来館せずに、インターネット経由で複写の申込みができるサーヴィスもあります。(有料)

最寄りの図書館に、資料や本を取り寄せることのできるサーヴィスもあります。
(「図書館間貸出」制度に加入申請し、承認を受けた図書館に限られます。)
この場合も、その図書館内での閲覧になります。

資料や本は検索システム(NDL-OPAC)で検索します。












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